【第101回】東京すし物語 その4 -すし屋の敷居

最近、回転寿司の人気が高いそうである。
ある有名回転寿司の一番人気のメニューを聞いたところ、ハンバーグ寿司とサーモントロだそうで、これには筆者も、あらら・・・とずっこけた。
最近、中国や台湾で本マグロの人気が高まって、本マグロが枯渇するというニュースがあるが、東京の中級以上の寿司屋に関する限りではその心配はあまりな い。なぜなら、元々、近海マグロしか使っていないからだ。ボストンとかミナミマグロ、インド、バレンシアは春先や夏の品薄の時に使うことはあるが、通常は春先から日本近海の暖流に乗って揚がってくる本マグロを順番に(例えば、紀州沖、銚子沖、金華山沖、大間、戸井、松前、噴火湾、または対馬、佐渡、青森) 出しているので海外冷凍ものの水揚げ量そのものが東京の寿司屋に影響することは少ないようだ。
マグロは体温が非常に高く身がやけやすい。冷凍してもマイナス30度くらいだとやけてしまうので、マイナス60度の冷凍設備が必要となる。マイナス60度と言えば、窒素も凍る温度なので、そんじょそこらの冷凍倉庫では保管できない。そこで、三崎や焼津などマグロの集積地は限られてくるのである。
最近は回転寿司全盛でとても人気があるようだが、いろいろ深刻な問題もある(特に材料に関して)。筆者はジャーナリストではないので、その内情を暴露することはしないが、ある程度の食の安全を守るのに、やはりそれなりのコストは覚悟しなくてはならないと思うのである。
とは言っても、東京で値段が全く不明な高級寿司店に飛び込みで入る勇気はないという方のために、本メルマガでは、初めての寿司屋の訪問のしかたをシミュレーションしてみようと思う。

■その1.情報収集
筆者はあまりやらないが、一般的に寿司屋は値段表がないので、いくらかかるか判らないと思われている(そうは言っても程度問題があるので六本木や銀座の一部の店以外ではそんなに法外ともいえません)。
そこで役に立つのがグルメ本やグルメ雑誌の記事である。そこにはおよその値段が書いてあるので、それを参考にして持ち合わせを用意するとよい。たいていはカードが使えるが、時々カード不可(こういう店は逆に良心的です)のところもあるので注意が必要である。
ちなみに、都内には1万円台で満腹になって、たらふく飲んで堪能できる店がたくさんあるので、必ずしも値段が高いからいい店とは限らない。ものには(材料にも)相場というものがあるので、ふっかけない限り上限は決まっているのである。

■その2.予約
筆者ならば18時30分くらいのカウンターを予約する。なぜならば、その日のネタすべてに出会えるからである。これによってその寿司屋の傾向が判る。
よくガイド本なんかを読むと、端のテーブル席で5,000円くらいのおまかせを注文しろ、とか書いてあるが、そんなちぢこまって食べても全く楽しくないので、堂々と一番カウンターに座ってお好みで食べることをオススメする。
もし、常連に極端に媚びて、一見には無愛想で特に無礼であったら、そんな店に通う必要はない。お客様はこっちである。
筆者のよく行く店はテレビや雑誌にもよく載るが、決してそんな態度はとらない。カウンター商売というのは対面商売なので接客は重要なポイントである。これがダメな店に喜んで通う珍しい客もいるようだが、マゾヒストではない限り接客がダメな寿司屋に通う必要はない。また、昔の親方で(特に江戸前をハナにかけ た店に多いが)客をいじる奴がいるが、そういう無礼な店に彼女と行っても不愉快なだけなので、途中で帰った方が精神衛生上はよいだろう。ちなみに、筆者に関する限りでは、そういう経験は幸いにしてない。寿司屋がコワイなどというのは昔の話である。また、年齢で差別されることもない。

■その3.作法
寿司の食べ方に特に作法はないし、判らないことがあったら店に聞くことは全く恥ずかしいことではない。むしろどんどん聞いた方がよいだろう。
よく箸でつまむのは邪道だとかいう人がいるが、客が箸を使うか、手でつまむかで握り方を変えるくらいの腕があってもいいし、そんなに違いは出ない。客の自由である。
それよりもおにぎりを食べるように飲み込んでしまってはとてももったいないので、味の変化がよく判るように何回も噛みこむ事が重要である。特に、光りも の、〆ものは味が口の中で変化するので、一貫、一貫をよく噛み込むことはとても重要な作法といえる。一貫、一貫(筆者の貫は2個づかいではなく、貫数は1個づかいです)をメインディッシュのように賞味すべきである。
一般的には白身のように淡白なものから、ツメを付けたクドイものへとだんだん味が濃くなるように食べろと言われているが、それも好みであって、特に厳然としたルールはない。
何をどう食べるかであるが、初めての客ならば、「握りますか、つまみますか?」と聞いてくる店もあるし、握りまでにいろいろなつまみを自動的に出す店もある。これは店のスタイルなので、“おまかせ”で食べるなら、郷に入らば郷に従え、である。
最近はつまみに工夫を凝らす店が増えてきて、握ってもらう前にお腹がいっぱいになってしまうこともあるが、それもまた一興である。後、2,3貫くらいの余力になったら、「握ってください」と言えばいいだけの話である。
銀座にある有名な店で、カウンターに座ったとたん、20数貫の寿司をいきなり矢継ぎ早に出されて、酒も飲まずに数万円請求されたと怒っている知人がよくいるが、有名=名店ではないし、有名=美味でもない。前もって調べればそんなことは判るので、Y本さんの情報を鵜呑みにしなければよいだけの話である。あく までも自分の舌で判定すべき問題である。モノの味まで評論家任せにしてはならない。自分の舌は他人のものではないのである。向こうは商売だからいろいろな 都合で書くわけである。
これは筆者の実話であるが、前述の20数貫も客のペースを考えずに矢継ぎ早に出す店の一番弟子が横浜に分店を出していたころ(現在は銀座で有名店です)、 少なくとも2,3万円は覚悟しなければならないと知人から言われて行ったのだが、そこそこ食べたいだけ食べて飲んで満腹になったが、勘定は1万2,000円 であった。非常に綺麗な寿司であったが、Y本氏のいうような特殊なものではない。
ちなみに筆者の傍らにいたガチガチに緊張(名店と思って)していた客が、親方から“次は何にしますか?”と聞かれて、“なんでもお勧めをください”と無謀というか主体性のない注文をし、高そうな車海老が出てきたのを見て、寿司屋なんだから自分の好きなものを頼んだらいいのにと思った記憶がある(ちなみに筆者はマイペースで安上がりネタが好きなので安くあがったと今でも思っています)。
鮨屋もワインと同じで1万5,000円を超えたものは単に人気の問題で、値段が10倍だから味も10倍よいというものでもない。実はリーズナブルに仕上げようと思ったら、寿司の原価を考えながら食べればよいのである。
夏の白身の代表である、星鰈がキロいくらで、マコ鰈がキロいくらか、冬の本マグロより夏の近海本マグロの方が値が張るとか、大トロと中トロの値段は全く違うとか、いろいろな原価をよく知って、ヒカリ物中心(仕事したもの中心)で食べればそんなに値の張るものではない。
もしあなたの連れ合いが大トロとウニとアワビと車海老と赤貝が大好物だったら、それはそれなりに覚悟も必要であろうが。

■その4.勘定
これは残念なことであるが、実際に起きたことである。以下のケースでは通常の倍の値段になることがあり得る。
1つは、人気店で異様に長居した場合である。
このケースで居酒屋モードで3時間も4時間も居座ると、もう来ないでね、という請求をふっかけられることがある。他の予約を断っている分、請求を乗せられるのである。
もう1つのケースは、前述にもあるように高級ネタを集中して食べる場合である。寿司屋の仕入れのポートフォリオの中でマグロは半分以上を占める高級食材で、その中で最も値の張る大トロばかりをあるだけ食べれば勘定が10万円いっても仕方がない。過ぎたるは及ばざるが如しで、こういう偏食の激しい客にも店側は、もう来ないでね、と請求するのである。
普通に食べる分には客は店の敵ではないので勘定も普通である。場所代にもよると思うが、1万~2万円台が妥当なところであろう。3万円を超えるケースは立地の問題か(これは高級店として都内では大体リストが出揃っています。一人5万円以上の高額店もガイドブックに出ていますから調べればすぐ判ります)、食 べ方に問題あり、と見るべきである。
少なくともこのレンジの店には筆者は行かない。なぜなら、妥当性を感じないからである。ものにはものの味と値段があって、いくら美味でも、ラーメンに対して1万円は出さないと思うのである。

■その5.リピート
寿司はとても季節感のある食べ物なので、店を評価するときには少なくとも春夏秋冬と4回は通う必要がある。そうしないとその店の真価はわからない。よく一 度訪問しただけで天下を取ったような評論家がいるがそれは強弁に近いと筆者は思う。季節ネタをどう出すかという問題は寿司屋を見るうえでとても重要であ る。もっとも一回で、もう行かないという選択肢は大いにありではあるが。

■その6.回転寿司
ただし、こうした寿司屋は子連れは基本的に歓迎されない。当の子供もハンバーグ寿司とかプリンとかがないので大人の通う鮨屋はあまり好きではないかもしれない。
子供が小さいうちは回転寿司に通って、大きくなってものの味がわかるようになったら回転していない寿司屋に連れて行くのがいいのかもしれない。
回転寿司が必ずしもよくないということはなく、たとえば地方の魚港の回転寿司に入る機会があったら、ぜひ地物だけを選んで食べてみるとよいだろう。これは驚きである。値段も安い。

そういうわけで、寿司は原価を理解して食べれば決して高いものではないのである。
生産管理と同じで原価システムが重要なのである。
孫子に曰く
「彼(かれ)を知り、己(おのれ)を知れば、百戦して殆(あや)うからず」
(訳:敵を知り、自分自身をわきまえて戦えば、何度戦っても危険はない)なのである。