【第80回】米作りの経済学

筆者は心が疲れると逃避癖が出る。そういう時は必ず頭に、“晴耕雨読”の4文字が浮かぶようになっている。この4文字が頭の片隅に出現すると、“いつか幸 せになりたい”と自動的に考えているらしい。ということは筆者の理想の生活は農業ということになるのかもしれない。これは日本人の典型的な発想でどうも遺伝子の中に組み込まれているようである。決して牧畜や狩をして森に住みたいとは思わないのである。

先日、ある機会があって元農家の人に現代の農業の実態を聞くことができた。このシミュレーションはそのときの話を基にしたものである。
筆者は宮城県の出身である。宮城といえばササニシキと思っていたのだが、現在では、ササニシキを作る農家はどんどん少なくなっていて、ひとめぼれに移行し ているそうである。ササニシキは病気と風に弱いので最近は流行らないらしい。7割方がひとめぼれになっているそうである(因みにササニシキのブランドは古川市周辺でとれる大崎米と呼ばれるものが最上とされています)。

ところで、晴耕雨読を完全に実行するためには、稲作によって生計を立てなければならない。
そこで、年収1,000万円の晴耕雨読生活を実現するためのポートフォリオをシミュレーションしてみたのである。以下のデータはあくまで筆者が個人的に聞いたデータから計算したものなので、国家統計のように正確な調査に基づいていないことを予め了承願いたい。あくまでも大雑把なシミュレーションである。
私家版農業脱サラ入門である。


■ケース1. 客先が農協である場合
作った米を全て農協に買い上げてもらって年収1,000万の生活を送るためには、どのくらいの土地が必要になるのかを考えてみよう。
まず、米1俵(1俵=60Kg)の米価は現在約14,000円である。
農協に1,000万円分の米を納品するためには、10,000,000/14,000=714.3俵の米を収穫しなければならないことになる。1俵は60Kgなので、42,857Kgの米を生産しなければ夢の1,000万稲作農民にはなれない。
宮城県の平野部の米の生産性は、1反(991.7㎡)辺り約9俵(540Kg)である(これは全国平均の450Kgよりは若干生産性高いです)。
よって、714.3俵の米を生産するためには、714.3/9=79.3反(78,707㎡=23,850坪)の土地が必要となるのである。これは東京ドーム1.7個分の広さに相当する。
ちなみに、日本人の米の年間消費量は約64Kgなので、年収1,000万を稼ぐ農家は700人以上の年間の米を供給するという偉業を成し遂げていると言えよう。
東京ドーム1.7個分の水田を耕作するのはかなりの重労働となることは必至である。一人でこれだけの土地を耕さないと1,000万の年収は維持できないの で、当然のことながら田植えも一人で行うことになる。筆者は実際に田植えをしたことがないので、1日辺りどのくらい植えられるのか分からないが、最新の田 植機は、10アール辺り20分で植える能力があるので、78,707㎡の水田に全部苗を植える時間は、段取り替え時間を10アール辺り10分とみて計算す ると、(78,707㎡/1,000㎡)×30分=2,361.2分=39時間=約4日の労働ということになる(夜は仕事ができないので実働9時間で計算)。


■ケース2. 客先が消費者である場合
インターネットや通販ルートを駆使して生産した米を直接消費者に届けて販売する場合のポートフォリオをシミュレーションしてみよう。
まず、消費者に直接販売するのは売価が高いので、中間マージンの搾取を受けない分効率はいいのだが、反面、定常的に購入してくれる固定客を持たなくてはならない。
インターネットで調べると、日本一のブランド米である、魚沼産のコシヒカリが5Kgで3,000円~4,000円で売られているが、これは別格なので、仮に5Kgで2,000円で販売したと仮定しよう。
1,000万の収入を得るためには、10,000,000/2,000×5=25,000Kg=416俵の米を生産する必要がある。1反辺り9俵の収穫が あるとすると、416/9=46反=45,912㎡(大体、東京ドーム1個分であります)の土地が必要となる。ただし、このビジネスを成立させるためには、生産した米を全量買取るこのとのできる顧客が必要である。25,000Kg/5Kgパック=5,000人の顧客が必要となるのである。従って、あなたに5,000人の知り合いがいて、東京ドーム1個分の水田が借りれれば(ちなみに、地方の農業委員会に相談すると、1反あたり年2万円程度で貸してくれます)、年収1,000万の晴耕雨読生活が実現できるのである。

東京ドーム1個から2個分の土地さえ手配できれば、1,000万プレーヤーで晴耕雨読生活が実現できることが判明したが、雨読できるかどうか、はたまた、必要経費がどのくらいかかるのかも計算してみよう。

まず、労働時間であるが、インターネットに掲載されている、浅野家の稲作日誌を基に年間の労働日数を算出してみよう。

1月–雨読休み
2月– 〃
3月–晴耕17日
4月– 〃 18日
5月– 〃 20日
6月– 〃 27日
7月– 〃 19日
8月– 〃 21日
9月– 〃 21日
10月–〃 21日
11月–雨読休み
12月– 〃


以上のようになり、稲作における年間労働日数は、164日であることが分かる。ただし、浅野家の場合は、10反しか稲作をしていないので、ケース1の場合 の79.3反(約80反)の1/8の耕作面積である。よって、農繁期の人手不足を支えるためにフリーターを雇わなければならくなる。
仮に3人雇ったとしよう。3人×164日=492人/日となり、三食昼寝住居有りのアルバイトなので日給6,000円と仮定すると、総人件費は、492×6,000円=2,952,000(約300万)である。これに地代80反×2万円=160万がチャージされる。

一方、農機具は全てレンタルでカバーするので、(田植:5万円×2回)+(除草:農薬散布3,500円×20日)+(稲刈:5万円×3日)+(脱穀:5万円×2回)+(耕運機5万円×5日)=67万としよう。これに用水代や場所によって揚水代が加算される。揚水代は1回12万円×4回=48万、肥料代とし て10aあたり10Kgの消費とすると、80反≒80a分では80Kgとなる。これを年1回追肥するとして160Kg、20Kgで2,000円の肥料を購入したとすれば肥料代は年間16,000円となる(安いなー。本当かね)。
その他にも、軍手や野良着や農機具等々の備品として30万かかると仮定すれば、経費は、アルバイト人件費300万+地代160万+農機具レンタル67万+水代48万+肥料16,000円+その他経費30万=606万円となり、1,000万の収入に対して経費は606万という勘定になるようだ(本当かね?)。そして手取りは400万ということになる。

皆さんが仮にサラリーマンを辞めて、晴耕雨読の生活に入ったならば、この400万で生活することになるのだが、食費は自給自足なのでエンゲル係数は極めて低い生活になると思われる。また、11月から2月までは農作業ができないので、寒い冬の日本を離れて南半球のニュージーランドあたりに長期滞在することも可能である。
本を読む時間は年に4ヶ月も確保されるわけである。

日本は戦後、連合国軍総司令部 GHQ (General Head Quarters)の指令に基づき、農村における封建的社会制度を打破するために、敗戦後の昭和22年(1947年)から昭和25年(1950年)まで、3年間かけて、農地改革を行なった。
その結果、昭和26年現在で198万7千町歩の農地を国が地主から買い上げて、土地を耕していた小作人に売り渡したのである。その結果何百年も続いてきた農村の地主、小作制度は完全に崩壊し、自作農の数は農地改革以前の284万戸から541万戸へと飛躍的に増加したのである。
その結果、農業の経営規模が小規模になり経営が立ち行かなくなり、日本の米作農家は国際的競争力を失い、毎年莫大な税金の投入によって保護せざるを得なくなったのである。
ちなみに減反政策という補助金制度があって、1反の水田を休耕にするか米以外の作物を転作すると、約6,000円の補助金が自動的に国から支給されるようになっているのである。
この場当たり的政策によって世界一美味しい米を作ることができる日本の稲作は水田の荒廃という深刻な危機にみまわれるようになった。
また、家業零細農家を保護しすぎて後継者が育たず、日本の食糧自給率は最悪を更新し続けているのである。

農水省は日本の農業を発展させるためにあるはずだが、全く逆の結果を生んでいるのが実態である。
こうなったら、脱サラ軍団が荒廃した農業を立て直すしかないのである。

ここまでシミュレーションしてみて、いっちょやってみべぇか、と思うのは筆者だけであろうか?