【第47回】気になる数字 -闇の法律はどのようにして決まったか?

98年の日本の銀行の貸し渋りの遠因は不動産バブルの崩壊であるが、直接の原因は金融庁のマニュアルによる行政指導であった。いわゆるハードランディング 政策である。評論家やコンサルタントが作成したこのマニュアルは長期的資産を全て超短期的資産の現金に換算して評価せよ、などどいうとてつもなく乱暴な ものであった。

これを例え話しで説明してみよう(昔話し風に)。

あるところに2人の18歳の若者がいましたとさ。
A君は名門高校から東大法学部に入学して現在学生でしたとさ。B君は中学生のときに傷害で逮捕されて少年院を経て、今はヤクザの下働きをしていたとさ。
そこにK村という偉い人がやって来て、「お前らの価値をなんぼのもんか査定しろ」と言ったとさ。
A君は大学の授業が忙しいのでコンビニのバイトしか出来ず、月12万円しか稼げなかったとさ。B君は兄貴から小遣いをもらったり、喝上げしたり、女からせびったりして100万円稼いだとさ。
K村さんは「B君はよく金を稼ぐ、エライ!君は日本の宝だ」と褒めたとさ。
評論家の頭などこんなもんさと人々は呆れかえったとさ。 それから40年後、A君は出世して実業家になり生涯で100億円の資産を残しましたとさ。方やB君は25歳で抗争のため刺殺され500万円の借金を残しましたとさ。長期的資産を現金に変換して査定する乱暴さは遂にK村さんには理解できなかったとさ。
やれやれ やれやれ。

銀行がここまでして査定をしなければならなかった闇の数字がこの背景には存在した。
BIS基準である。BIS基準のBISとは、Bank for International Settlementsの略で、元々は第一次世界大戦後のドイツの賠償を処理するために1930年スイスのバーゼルに設立された国際銀行である(別名バーゼルクラブと言います)。
現在では国際決済銀行として主要工業国(これも結構曖昧ですが)の国際的な金融政策の調整の場になっている銀行である。この銀行がBIS規則といって銀行の健全性や競争の公平性の確保を目的として民間銀行の自己資本比率に関する国際的な統一規制を制定した。
一説には、国際的に巨大化して影響力を持ち始めた日本の銀行を牽制するために、当時の不動産に資産の中心があった日本の弱点をつく基準であったという意見もある。
BIS規則は1988年に合意され、92年末(邦銀は93年3月末)以降に適用された。
国際業務を行う金融機関は自己資本比率8%以上、国内業務だけの場合は4%以上とすると定められた。当時の都銀の自己資本比率は3%を下回っていたし、それでもムーディーズの格付けはトリプルAであった。
3%の自己資本比率の都銀が8%を達成するためには、自己資本比率=自己資本/資産なので、分子の自己資本を充実させるか、分母の資産を圧縮するかしか方法はない。そのために98年日本の銀行は顧客を全く無視して「貸し渋り」と「回収」に明け暮れたのである。

これが日本の経済システムを崩壊させる結果になったことは素人の目から見ても明らかであるが、ここにいくつかの疑問がある。
そもそもBISの8%(国際業務)と4%(国内業務)の数字の根拠は何か?
8%と4%の数字は誰がどういう権限で決めたのか?
どうして国情に合わないこの数字を日本は受け入れなければならなかったのか?(米国の金融機関は資産規模が小さく、無担保が主流で、日本や欧州は資産規模が大きく担保主義でした。国情は全く異なるのです)
筆者は当時、銀行の関係者と話す機会がある毎に「なぜ8%なのか?」と聞いて回ったが、当の金融の専門家が全くこの根拠を知らないのである(せいぜいドイ ツ銀行の総裁が決めたとか、FRBのボルカーが働きかけたらしいという消息しか公にはされていません。この大事件がもちろん国会で審議されて日経新聞をにぎわせた記録もありません)。かくして失われた20年が始まり、日本の都銀は13行から3行になった。
この“8”という闇の法律(国民はこの決定に一切関与していないし、国会も審議して立法化したわけではありません)がどういう経緯で日本で適用されるようになったのか誰も判らないのである。日本にはまだこういう外国人の手先になって暗躍する経済マフィアが存在するらしい。

もう1つ深刻な闇の数字がある。ペイオフの限度額である。
ペイオフ制度とは、70年代に創設された金融機関が破綻した時の処理方法で、金融機関から集めた保険料によって預金の一定限度までのお金を預金者に払い戻 し、その上で金融機関を精算する制度を指す。その払い戻す保証金額が2002年4月から1,000万になったことをペイオフ解禁と呼ぶのである。
ここで問題なのは、1,000万というこの闇の基準が何を根拠に作成されたかという点である。誰がどこで何を根拠に1,000万と決定したのか政府から一切発表されていないし、銀行の関係者に聞いても誰も答えることができない。
この1,000万という闇の法律がもし5,000万と設定されていたらどうなるであろう。個人の普通預金と定期預金を全て合算して5,000万以上持っている人 など殆どいないので、全く問題にならないし、かえって社会不安は解消されるのではないかと思うのである。銀行の信用不安も極めて起きにくい数字となる。

なぜ1,000万としたのか?筆者はその背景を勝手に推理してみた。

仮説1
まず、1,000万というのは郵便貯金の預入限度額である。ただ何となくそうなっていたので1,000万がいいだろうと役人が思った。否!

仮説2
竹中さんのような米国かぶれが米国の仕組みをそのまま流用したという説である。
米国の連邦預金保険機構は銀行預金を10万ドルを上限として保証しているからである。10万ドル×100円/1ドル=1,000万という訳である。
だが、これは少し変である。米国は日本に比べて著しく貯蓄率が低い。その貯蓄率の低い米国が1,000万(10万ドル)保証するならば、日本は5,000万(50万ドル)くらいあってもいいのではないだろうか?
これは明らかに国情に合っていない。日本は独立国家である。米国の植民地ではない。ここまで米国の制度を真似しなければならないほど日本は発展途上国ではない。

仮説3
第3の仮説として考えられるのが、相続税を完全に徴収するためのインフラ作りである。
金融庁と預金保険機構が運営する金融公報中央委員会のホームページを見ると、ペイオフの説明の中に「名寄せ」という口座をユニークにさせる施策がある。
これがペイオフ解禁1,000万の真の狙いではないかと筆者は推測している。これが事実だとすれば衝撃的な問題である。
以下は「名寄せ」に関する金融公報中央委員会のホームページからの抜粋である。

「預金保険制度・ペイオフ」
預金者の皆様へ
名寄せは預金保険機構で行いますが、破綻金融機関から正確な預金者データが迅速に提出されないと、付保預金額が確定できず預金等の保護を円滑に行う上で支障が生じることになります。
名寄せのために、正確な預金者データを整備するには預金者の皆様の、氏名、生年月日、住所(法人の場合は名称、設立年月日、所在地)、電話番号等が必要で す。このため、預金者の皆様は引越しや結婚等によりこれらの事項に変更が生じた場合、速やかに各金融機関での手続きをお願いいたします。
実は、筆者の知人の父親が亡くなった時、区役所に死亡届を提出したところ(死亡届を出さないとお葬式が出せないので)、次の日に彼の母親が預金から生活費をおろそうと銀行に行くと、口座が自動的に凍結されていてお金がおろせないという事件があった。
要するに、相続税の正確な徴収のための口座の凍結である。死亡届がでると速やかに通知されて銀行口座は国家によって自動的に凍結される。名寄せはこのために非常に重要な徴税処理のインフラ整備となるわけである。
現在日本人で1,000万以上を現金で持っている人々は間違いなく60歳以上の高齢者である。なぜなら退職金を手にしたからだ。それらの人々は平均寿命82歳の日本ではこれから20年でほぼ他界する予定である。
こう考えると、ペイオフの金額がなぜ1,000万であるか(ちょうどこの金額は一般の退職金の額に相当します)明確になるであろう。
この段階で個人の口座を「名寄せ」して旧姓とか旧住所のままの通帳を死亡時の現住所に書き換わるように「名寄せ」するのが真の目的なのではないか?という仮説が一番1,000万の根拠として有力と筆者は思うのである。

これら闇の法律は、国民を苦しめる地雷であり、見えざる毒薬である。
この毒を設計している人物、集団は一体誰なのだろうか?

皆さんはもうおわかりですよね。