【第9回】武士道解題 -今問われるリーダーの条件

新渡戸稲造の「武士道」が最近ベストセラーになっている。
この本は米国に滞在していた稲造が「なぜ日本人は宗教教育を受けないにもかかわらず徳育が備わっている社会を作ることが出来るのだ」という問いに対して説明するために英文で記述された書物である。
要するに、岡倉天心の「茶の本」のように外国人への啓蒙書として記述された本なのである。
武士道を語った本としては松浦静山の甲子夜話とか、有名なのは『武士道とは死ぬことと見つけたり、二つ二つの場において死ぬほうにばかり片付くなり。別に些細なし』という威勢のよい文句で始まる山本常朝の葉隠があるが、こちらは前書きのような品位はなく、内容をよく読むと小役人やサラリーマンの出世学処世術のようなくだらない知恵が書いてあるにすぎない。

今、なぜ武士道なのか?

それは、混乱して米国流の功利主義的なドライな社会になりつつある日本のリーダーへの警鐘なのである。
それはそのまま我々システム開発の中のプロジェクトリーダーの条件にもつながる。新渡戸稲造の武士道を要約すると、以下のような内容になる。


武士道とは、
サムライの哲学/指導者の品格 “武士社会の中間管理職のおきて”
                         ―新渡戸稲造「武士道」より

1. 「義」 卑怯でない“正義の道理”(ふるまいの総称)
「士の重んずることは節義なり。節義は例えて言わば人の体に骨ある如し。骨なければ首も正しく植えに在ることを得ず。手も物を取ることを得ず。足も 立つことを得ず。されば人は才能をありても学問ありても、節義なければ世に立つことを得ず。節義あれば不骨不調法にても士たるだけのことには事かか ぬなり」 ―真木和泉守
「義は人の正路なり」  ―孟子

2. 「勇」 義を見てせざるは勇なきなり “勇敢のすすめ”
勇気とは正しいことをすることである

3. 「仁」 人の上に立つ条件とは何か“いつでも失わぬ他者への憐れみの心”
惻隠の心は仁の端なり ―孟子

4. 「礼」 礼とは他人に対する思いやりを目に見える形で表現すること

5. 「誠」 正直は最善の策

6. 「名誉」 名誉はこの世で最高の善である

7. 「忠義」 命令に対する絶対的な従順
Mission always possible!  組織人のプライオリティ

サムライ大和魂は民族全体の「美しき理想」
東洋のノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)

江戸時代の階級制度から武士の役割をふり返ってみると、武士とは、農・工・商を従えて、これを統率する江戸社会の中間管理職なのである。
ということは、その行動規範である武士道は、リーダーの条件を語ったというものになるのである。

ここで重要なポイントは、第一の条件が義 (正しいことを正しいと思う心)、第二の条件が勇(義を実行する勇気) だということである。
即ち、義勇兵の義勇がリーダーとしての第一条件と活破しているのである。
これは、新撰組のような農民からはすぐにわからない要素だったかもしれない。彼らは忠や誠を武士道の第一においているからである (外見から見た武士と内面から見た武士の差か)。

システムのプロジェクトリーダーにも同じ要素が求められる。困難な仕事を遂行するリーダーには常にこの品性の高さが求められるのである。
正論を貫き、それを勇気をもって実行する。ビジネスや仕事のスジの正しさはそこから生まれるし、お客様や部下との長い信頼関係もそこから生まれる。
奇をてらったり、人を騙したりするような権謀術数が介在する余地はないのである。

欧米のコンサルと日本土着のSIer、SEとの戦いの本質は、嘘をついてもいい人間と嘘をつけない人間の戦いである。このハンディは非常に厳しい。
最近、焼畑農業ビジネスと呼ばれて騙した焼畑を次々に移動していく集団が巨額の収益を上げ続けている。

真のリーダーは正論を勇気をもって貫き、部下には惻隠の情をもち、礼を重んじ正直な企業人なのである。
決して卑怯と臆病にまみれたサラリーマンではない。

新渡戸稲造が草葉のかげからそう言っているような気がする今日この頃である。

南無。