これは実話である。
某大手SIerが社内システムに有名な某ERPを導入した。その会社はすべての購買業務(発注業務)をMRP(資材所要量計画:ERPの代表的な生産管理システム)で行っている。
MRPとは、会社(工場)の発注や製造指示をある一定期の範囲(これをタイムバケットと言い、通常は1ヶ月や1週間の単位)でまとめて一括計算するしくみである。
これにはパラメータが必要になる。リードタイムやロットサイズ等のMRPエンジンを動かすための必須のパラメータが必要になる。 通常、消しゴムや鉛筆を買うには、注文書(発注書)に消しゴム10個だとか鉛筆12本と書いて業者にFAXすれば購入できるのだが、MRPエンジンを使っているために、架空のリードタイム、架空のロットサイズ、架空の標準取引先コード、架空の員数等が必要となるのである。担当者はMRPエンジンを回すためだけにこれら“ウソ”のパラメータをせっせと入力しなければならない。

MRPシステムは、1970年代にIBMの360というベストセラー汎用機が登場して、COPICSというMRPシステムと共に世の中に普及することとなった。以来、コンピュータによる生産管理システムはMRPシステム一色に染まってしまったのである。1990年代~2000年代のERPの普及に伴ってその傾向はますます顕著になったのである。
現代では、MRPにあらずんば生産管理システムにあらず、と言っても過言ではないかもしれない。
MRPとは、もともと、大量生産・大量購買によってコストダウンをするシステムである。従って飛行機や船のような個別受注品を管理するには不向きであるし、今日のようにグローバル化によって製品のライフサイクルが短く、デフレの時代に大量に生産するメリットはないし大量に購買するメリットもなくなったのである。
MRPを正常(適正)に運用することは極めて難しい。

  • 基準情報に狂いはない
  • リードタイムは絶対だ
  • 計画は必ず遂行される
  • すべてが整合性を満たして流れる

以上の条件をすべてクリアしなければならない。要するに、上記の必要十分条件は需給バランスは決して変動しないということを前提としているのである。
最近ではMRPで上手くいかないお客さんが多く(システムがきちんと回らないということだが)、在庫も管理できないというケースが頻出してきて、MRPは動かないコンピュータだらけになってしまったのである。
なぜこのような事態が発生したのだろうか?
それはMRPがバッチ一括計算で変更できない硬いシステムだからである。
簡単な例で説明すると、ある家の1ヶ月の献立を93食分(3回×31日)計画して、材料をそれぞれのリードタイムに合わせて発注したとする。93食を完全に献立どおりに食べれば問題ない。また、購入した材料がすべて良品(腐ったキャベツなどはない)であれば問題ない。93食すべての食材のリードタイムがそれぞれの賞味期限を厳守するように設定されていれば問題ない。家族の誰にも食べ物の好き嫌いがなければ問題ない。いつもご飯を一膳しか食べないお父さんが三膳食べなければ問題ない。子供が予定していないおやつを要求しなければ問題ない。お父さんが会社の会食で夕食をキャンセルしなければ問題ない。
MRPはこの“問題ない”をすべて実行しないと整合性が崩れるしくみなのである。
このような絶対的計画立案と絶対的な実行を現実の世界で遂行することは極めて困難なことなのである。MRPだけですべての生産活動をカバーするのはもともと困難なのである。

そこでできた新しい考え方がクラステクノロジーの「Manufacturing 4.0」なのである。 では、Manufacturing 4.0とは何か?

img_p09

見込大量生産のためのMRPシステムと個別受注生産のための製番システムとマスカスタマイゼ―ション生産のための半見込半受注生産の3つの生産管理システムを並列で実行し、実行計画を作成する(製造オーダ、購買オーダを生成)。その実行計画をしずしずと実行しながら、日々飛び込んでくる突発的な注文や計画の変更を、既に決めた順序計画を変更しながら補正してゆく新しい生産管理システムの枠組みである。
従来のバッチ型生産管理システムにリアルタイムな納期回答/座席予約というシステムの運用/変更を組み合わせたフレキシブルな生産管理システムである。
納期回答/座席予約は以下のようなしくみである。

img_p13

これにより、トランザクションベースの変更がリアルタイムにバッチで計算した順序計画に反映されて修正されるのである。計画は計画で順守しながらトランザクションベースでリアルタイムな変更を加える生産管理システムである。

MRPがうまく動かないということは、見込み大量生産だけではカバーできない製品が存在するということでもある。
ERPの本家ドイツにおいてもその事情は同じようで、最近、マスカスタマイゼ―ションに対応する生産システムをIndustrie 4.0という名前で提唱し始めている。これは、Manufacturing 4.0の中の半見込半受注生産に該当するものである。決してドイツ人が新しい概念を提唱しているわけではない。

1970年代から、汎用機、オープンシステム、ERPを通じて普及してきたMRPシステムであるが、この段階になって、その硬直性や使い勝手の悪さが在庫の増大や欠品、納期遅れにつながり、基幹システムと呼ぶにはあまりにも運用が難しく全体最適にはならなかった。
MRPでは上手くいかない、では何をすればいいのか?
長い間、パッケージベンダやERPベンダはその答えをエンドユーザーに提案できなかったのである。

今、世界の製造業が垂直統合から水平統合に移ろうとしている。目的はグローバルにおける最適生産のためだ。最適生産の目的とするところは2つあって、1つ目は売れるところで作るという最適生産、2つ目は最もコストの安いところで作るという最適生産である。情物一致(情報と物を一致させて世界中のあらゆる工場で自由自在にものが作れるデータ管理)を行い、世界中の工場をつなげる概念が「GLOSCAM」(Global Supply Chain Advanced Management)であるが、そのGLOSCAMの実行系が「Manufacturing 4.0」なのである。
これからの生産のソリューションの枠組みはこの2つの概念を用いて構築されることになるであろう。