【第186回】フカヒレ談義

NHKの朝ドラ「まんぷく」で日清食品がモデルになっていたが、その中でまったくドラマになっていない部分がある。
「出前一丁」である。出前一丁というのは画期的な商品なのである(特に中華圏において)。

 

皆さんは中国本土や香港やシンガポールのスーパーマーケットに行ったことがあるだろうか?
行くと必ずどこにも「出前一丁コーナー」という売り場があって、様々なバリエーション(日本では見たこともないような)の出前一丁が山になって売っている。

 

筆者がフカヒレスープを生まれて初めて食べたのは多分20代の頃だったと思うのだが、その時の第一印象は「あっ、これは出前一丁だ」であった。出前一丁の味はそのくらいフカヒレスープに使用する上湯(シャンタン)の風味とよく似ている。
本物のフカヒレスープは4,000円も5,000円もするのに出前一丁なら100円前後で同じ味でなおかつ麺もついてくるというわけである。

 

中華料理のスープは精進系以外は動物性のスープを使う。

・毛湯(マオタン)
 鶏ガラ、ひね鶏(卵を産まなくなった雌鳥で奄美大島ではとりめしの身にも使います)、豚の背骨

・清湯(チンタン)
 豚もも肉、鶏胸肉

・上湯(シャンタン)
 ひね鶏、豚もも、牛すね、白粒コショウ、陳皮(ミカンの皮)、ネギ、ショウガ、金華火腿(通称:金華ハム)

・白湯(パイタン)
 げんこつ(豚の骨)、豚足、もみじ(鶏の足)、豚の背油、豚の網脂

 

フカヒレは単にフカヒレと言ってもいろいろある。なぜならサメにもいろいろな種類があって、そのサメごとにヒレも違うからである(当たり前か)。
最近では中国本土の高級レストランでも人口フカヒレを扱うことが多い。
天然のフカヒレは明の時代から日本からの輸入品なのだが、そのフカヒレも象牙と同じで規制の対象になっている。

 

一般的に姿煮で使用されるのはヨシキリザメのヒレである。ヨシキリは別名ネズミザメとも、モウカザメとも言う。英語では、Salmon Sharkで身は鮭のように赤い。
このヨシキリザメの繊維を10倍位太くしたようなのがアオザメのヒレである。これは去年辺りからワシントン条約にひっかかりだして新たに獲ることはできない。幻となりつつある。
そのアオザメよりもっと希少なのがトラザメのヒレである。これくらいになると繊維の1本1本がもやしか箸のように太い。食べ応えもいいが現物はもうない。現在の在庫が払拭したらもう人類の食卓に乗ることはないであろう。そのくらい貴重なものになってしまっている。

 

(左が通常のヒレの倍の大きさはあるヨシキリザメのヒレ、右がトラザメのヒレ)

 

その貴重なトラザメを食べようという話しが筆者の周りでにわかに起こってきた。
もともとアオザメのヒレを扱っていた店の仕入先の倉庫でトラザメのヒレが見つかったというのだ。
トラザメといえば幻中の幻で、ワシントン条約どころの騒ぎではなく、もう現物は香港にさえないと言われている代物である。筆者ももちろん食べたことはない。
しかも最大(1.3Kg)のものを戻しても(そもそも乾物なので)10人前取れるかどうか判らないという幻の食材である。そのトラザメの姿煮を食べようということになったのである。

ちなみにその店では今年中に「満漢全席」をやろうという話しにもなっている(満漢全席:山・陸・海などから珍味を8品ずつ集めて「四八珍」と定義したもの)。

 

昔、中国の皇帝がフカヒレやツバメの巣やナマコや鮑や熊の手を食べたという話しがあるが、それらは全て世界中から(燕の巣はタイかベトナム、フカヒレ・ナマコ・鮑は日本から)乾物として輸送されたので、遠く離れた北京の故宮で料理することができたのである。
日本からは鎌倉時代より俵物(たわらもの)といって、フカヒレとナマコと鮑の詰め合わせを輸出していたのである。

 

トラザメというのは通称で英語のTiger Sharkとは違う種類のサメである。おそらくウバザメのことで中国では天九翅(テンジューチー:tian jiu chi)とも言う(日本においてはワシントン条約附属書Ⅱに指定され、商取引に規制があるため、現在流通しているものは条約以前に捕獲されたものである)。もともと乾物なので燕の巣にもフカヒレにも味はない。コラーゲンのかたまりである。

 

ちなみに、ワシントン条約の National Grade II Protected Animalsのことを CITES Appendix IIと分類している。海の中で最大なのはジンベイザメであるが、その次に巨大なのがウバザメ(トラザメ)である。現在は当然捕獲が禁止されているので今後も供給されることはない。今ある在庫がすべてである。これを食べようとする試みはまさにマンガの美味しんぼの世界である。実は現時点で2枚もどすのに失敗している(乾物なので)。
さすがに出前一丁よりはおいしいと思うが、出前一丁にはドラマにもなっていない日本人の知らない秘密があったのである。

 

みなさんもトラザメのヒレは高いので近くのスーパーで出前一丁でも買ってみたらいかがでしょうか。ほぼフカヒレの味がします。
日清食品創業者の百福は天才的商売人でした。

 

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