【第185回】男子厨房に“ぜひ”入るべし その2 -お父さんのための料理のすすめ

料理は教養であり、成年男子が自立するための有効な武器である。お菓子作りはマニュアル勝負、分量レシピ勝負のところがあるが(お菓子の本に書いてある分量と時間をきっちり守れば誰でも同じものが作れるという意味です)、料理は「塩梅(あんばい)」というようにセンスと勘がものをいう部分がだいぶある。
かく言う筆者の母親はまったく料理ができなかった(嘘のような話しだが、筆者が高校生になる頃までご飯もまともに炊けなかった)。それゆえ、筆者の料理は母親直伝ではない。すべて自分で学んだものである。今となっては和洋中を問わず何でも作れるし、魚も自分でおろせる。包丁も出刃のいいものを3本持っているし自分で包丁を研ぐ。

 

成年男子も筆者くらいの年齢になると、会社も定年になり仕事もなく家でプラプラするお父さん(要するに、隠居爺ということですが)になって、糟糠の妻から粗大ゴミのように言われている人も多いのではないかと思う。奥さんが用事で外出すると一日中何も食べずにお腹を空かして待つという情けないお父さんもいるのではないだろうか。
そうならないためにも料理は自分を養うために必要な知識なのである。

 

料理がまったくできない人が「何から始めればいいか分からない」とよく言うが、一般的に言われている料理の基本「さしすせそ」(さ:砂糖、し:塩、す:酢、せ:醤油、そ:味噌)は、日本料理に関して言えば正しくない。筆者は、酒、みりん(砂糖)、だし、醤油ではないかと常々思っている。
すべての和食はこの4要素の分量と配合の組み合わせでできているのである。カツ丼、ひじき煮、切り干し大根の煮物、肉じゃが、すき焼き、茶碗蒸しなど、すべて調味料は同じと考えてよい。
そう考えると和食という料理は極めて合理的な作業であることがわかる。すべてはこの4要素の塩梅で決まるのである。

 

ちなみに、中華・イタリアン・フレンチはまた要素が異なる(例えば、中華料理に日本の「だし」のような概念はなく、基本は水と塩であるし、イタリアンがフレンチと何が違うのかといえば、パスタやソースということではなく、乳化という概念である。簡単に言うなら、油と水を分子構造をそろえて混ぜると分離しなくなるのである。このテクニックがイタリア料理の大きなポイントである)。

 

さて、そんなに偉そうなことを言うなら作ってみろよ、という意見があると思うので、ここで基本中の基本を紹介しよう(筆者が基本中の基本と思ったのは、基本的なメニューと料理の4要素の中でスーパーで買えない「だし」について許す限り書いてみたい。だしに関して言えば、昆布だけで本が1冊書けるくらい奥が深いので、ここでは味噌汁のだしとして家庭でしか使わない煮干しの使い方を解説する)。

 

・How to make 味噌汁
味噌汁という料理は日本人の食生活の中で最も基本的なメニューであると思う。一汁一菜の一汁である。茶懐石でも重要な位置を占めている。まず、この味噌汁の作り方からマスターしよう。

1.だし
味噌汁のだしに何を使うかは究極的には好みである。筆者は鰹節や昆布は味噌汁にはあまり使わない。上品すぎてパンチがないからである。それゆえ、筆者は煮干し派(化学的に言うとイノシン酸派)である。これは他の日本料理のだしにはあまり使わないが、味噌汁のような日常のまかないにはパンチがあっていい。
筆者が一番いいと思う煮干しは長崎産のいりこである。長崎産のいりこは2~3cm位の小魚で小さすぎて頭と腹わたを取り除くことが難しいためそのまま水につけることになる。これを温めると小さな泡がたくさん出るのでそれを丁寧に取り除かなくてはならないが、これさえ注意すれば長崎産のいりこは味噌汁の最高のだしになる。だが、長崎産のいりこが近所のスーパーで売っているとは限らないので、ここでは通常の3~5cm位の煮干しを使うことにする。
まず、煮干の頭と内臓の黒い部分を取り除いて水につける。つける時間は2~3時間、冬は水が冷たいので長めにし、夏は温かいので短めでよい(2時間位)。それを中火にかけると(できれば、ボーボー沸騰しないように見張ったほうがよい)、薄いあめ色のだしが出るのと同時に細かい泡も出るのでそれを丁寧にすくう。
だしが出来たらそこに味噌を溶くのだが、ここに大きなポイントがある。味噌を入れすぎると、だしの風味が飛んでしまってあとで水を足してもだしの味は二度と戻らない。少しずつ味噌を足していって味噌汁が成立するギリギリのところで足すのをやめなければならない。
通常の味噌は味が台形のように設計してあって、味噌が台形の上辺の分量ならその味噌の美味しさが保たれるようにできているはずである。台形の上辺の長さの分だけ量のアローワンスが認められるということである。筆者がたまにいただく信州味噌の中にその形が台形ではなく剣岳のようになっていて、その頂上のポイントが左にずれても右にずれても加減が間違っている厳しい味噌があるが、その味噌は味が頂点に決まるととても美味しいし風味がある。
2.味噌汁の具
筆者の家人は冷蔵庫に余っている野菜を適当に入れろと言うが、味噌汁の具としてどうしても苦手なものがある。それはキャベツである。芋、人参、玉ねぎ、かぶ、かぶの葉、大根、小松菜も大丈夫だが、キャベツだけは苦手である。なぜならば、キャベツを入れた途端にだしの風味が飛んでしまって、せっかくのイノシン酸がダメになってしまうからである。大根や人参は下ゆでするが、キャベツは直接入れるのでそれがよくないのかもしれない(キャベツを下ゆでするとグズグズになってしまうが)。理想的な味噌汁の具は、豆腐、油揚げ、なめこ、わかめ辺りが無難であると思う。

 

次にご飯に移ろう。

 

・How to make ご飯
ここでは普通の白米の炊き方を紹介する。日本料理のご飯にはいろいろなバリエーションがあるが、粥や各種炊き込みご飯はここでは紹介しない。
米を美味しく炊くというのは電気釜の仕事だろうとみなさん思っているかもしれないが(それはその通りだが)、筆者は米を炊く前工程(生産管理風に言うならば)が重要であると思っている。すなわち、「研ぎ」と「浸水」である。米によって水加減が異なる(収穫期によっても)ので、水の分量は米特有でまちまちであるが、研ぎは美味しいご飯を炊くのに重要な工程である。
筆者はそもそも、なぜ「米を研ぐ」というのか最近まで分からなかった。研ぐということは研磨するということである。酒などでよく言われる精米歩合という言葉があるが、玄米からどれだけ研磨したかという割合を示しており、普通の白米で80%である。昔はその精米の精度がよくなかったせいもあって米ぬかが残っていたりしたため、米を炊くときに米同士を研磨することによって精米歩合を高めるということをしていたのである。
それゆえ、米を研ぐという言葉に研磨の研を使っているのである。これは精米機の精度が上がった現代でも必要で米の浸水性をよくする作業と筆者は考えている。米を研ぐと20%くらい水を吸ってふっくら炊けるようになるのである。ついでに言うと最近の米はよくできており、おーっと唸ってしまうものが多い。昔はコシヒカリやササニシキばかりであったが、ひとめぼれの系統で青天の霹靂や、ゆめぴりかのように昔は米が取れなかった北海道や青森の米も美味しくなった(しかもリーズナブルで)。
筆者が一番美味しいと思っている米は魚沼産コシヒカリの中の大沢米と呼ばれているもので普通の米よりも少し水加減が多くともツヤツヤに炊ける美味しい米である。これは旅館でいうと越後湯沢にある大沢山温泉の元湯である。大沢山温泉の大沢館で使われている米でもある。多分、日本一美味い(最近は近くにある里山十帖の旅館が有名ですが、大沢館は日本秘湯の会推薦の秘湯です)。

 

・How to make 切干し大根
さて、ご飯と味噌汁ができたので、おかずを作ってみよう。いくつかメニューを考えてみたが、ここではおばあちゃんの得意技で保存食にもなる副菜「切干し大根の煮物」を作ってみることにしよう。

1.レシピを調べる
インターネット全盛の時代なので作り方が分からなければネットで検索すればよいが、有名なクックパッドはほとんど役に立たない。亜流のやり方が多すぎて参考にならないのだ。どれが本来の作り方でどれが応用なのかさっぱり分からない。マイクロソフトのダイアログのようなもので言っている内容の意図がそもそも分からない(筆者は本来の作り方を確認するためにインターネットを見ます)。

2.準備(下処理)
切り干し大根とは大根を切って冬の乾燥した気候で干した保存食である。したがって、その干した大根を水で戻すことから始めなければならない。水に1時間位つけると黄色い戻し汁が出るので(古いものほど黄色い汁が出る)、水気を切って2,3cm幅に切る。それを熱湯にくぐらせ、ざるにあげて水気をよく切る。油揚げは幅1cm、長さ3cm位に切っておく。

3.煮汁
だし2カップ、酒、砂糖(みりん)、濃口しょうゆを各大さじ2(砂糖の代わりにみりんを使ってもよい。甘みは弱くなるので酒のつまみにするならみりんの方がよい)。ここでいうだしは昆布と鰹節でとったものである。
鍋にごま油を入れて準備した切干し大根と油揚げを炒め(これは風味付けの意味合いが強い)、全体にごま油がまわったら煮汁を入れて汁気がなくなるまで煮詰めれば出来上がりである。これはきんぴらと調味料(味付け)がほぼ同じである。要するに、みりん、酒、しょうゆ、だしの使い方が分かればあらゆる和食が作れるということである。できた切干し大根はタッパーに入れて冷蔵庫で保存すれば一週間はもつ。

 

<応用編> マイクロきんぴらごぼう
調味料が同じなので応用できんぴらごぼうも作ることができる。ごぼうのアクをよく抜いて(水でよくさらして色が出なくなるまで洗う)マイクロに切り(ということは1mm以下の細さにするが通常はこんな腕はないのでチョーク位太くてもよい。ただし調理法は異なるため以下、通常のきんぴらごぼうの作り方を参照)、人参もマイクロに切る。極限まで細くするためにごぼうも人参も桂むきにしてもよい(日本料理で使用する薄刃包丁のような片刃のほうがやりやすい)。
マイクロに切ったごぼうと人参はすぐに歯ざわりを失ってへたってしまうので、中華料理の炒め物をする要領で秒速でごま油で炒め、同割り(すべて同じ分量)の、酒、みりん、しょうゆを加え、鷹の爪を入れてサッと水分を飛ばして仕上げる。

 

<応用編> 通常のきんぴらごぼう
チョーク位に太いごぼう(普通の人の技量ではこれくらいしか切れない)、同じくチョークのような太さに切った人参と一緒にごま油でよく炒めたら鷹の爪を2,3本入れ、同割りの、酒、みりん、しょうゆ、だしを加えて汁気がなくなるまで煮詰める。材料がチョークのように太いのである程度煮込まなくてはならいのだ。そうしないと硬くて食べられない。
マイクロきんぴらはふわっとした食感であるが、こちらのチョークきんぴらはいつものあのきんぴらである。家庭の惣菜で作れる程度のものである。
材料をレンコンやうどに変えればレンコンやうどのきんぴらになる(これで3種のきんぴらができる)。


何、おかずがまだ足りない? それでは、ほとんど料理しなくていい納豆でも出そう。


・How to make 納豆
納豆は普通にスーパーで売っている納豆でよい。ちなみに納豆は枯れ葉菌の一種である納豆菌を使ってできている。納豆の美味しい食べ方を知らない人が多いが、ポイントはただ1つである。しょうゆやタレや調味料を入れる前に「よくかき混ぜる」のである。この「よく」を具体的に言うと、80回以上、100回位である。この位かき混ぜると、ちょっとやそっとのしょうゆには負けない。納豆は塩分に弱いので味をつける前によくかき混ぜて菌を活性化させることが大きなポイントである。


以上で紹介した、味噌汁、ご飯、切干し大根、きんぴら、納豆があれば、日本人の一回の食事としては十分である。