ウェーバーの強弁とユダヤ人の真実

筆者が学生時代、今から30 年くらい前、日本の大学ではマックス・ウェーバーを盛んに教えていた。昔は素直な学生だったので、学校で教わったことを真実だと信じていたのだが、年をとるにつれて「本当にそうか」と、思うことが多くなった。
マックス・ウェーバーは、プロテスタンティズムと資本主義の精神のなかで、17 世紀オランダに資本主義が誕生した背景をこう説明している。
中世まで、ヨーロッパを覆っていたのはカソリックであった。カソリックは教会を建立する目的で、社会資本を集めた。そのため、資本主義が台頭するような資本が民間にはなかった。
それが、カルヴァン派のプロテスタントが商売や金儲けを推奨したので、資本がカソリック教会に蓄積されず民間にとどまり、資本主義が台頭したと説明されてきた。しかし筆者は、「教会に寄付をやめただけで、本当に資本主義が台頭するだけのお金が余ったのか」と疑問に思った。どう考えても強弁である。
もう1つの疑問は、ユダヤ人である。ナチスドイツが迫害したユダヤ人は、アンネ・フランクに代表されるように白人であった。だが、新バビロニアのネブカドネザル2 世によって引き起こされたバビロン捕囚のころのユダヤ人は、今のパレスチナ人と同じセム語族(有色人種のアラブ人)であったはずなのに、いつの間にユダヤ人は白人になったのだろうか。
イスラエルのネタニヤフ首相とか、ナチスドイツに迫害されたユダヤ人はすべてアラブ人(有色人種)ではない。これは変ではないか。この2つの疑問には、実は重要な相関関係がある。
ヨーロッパや米国でユダヤ人と呼ばれている人々と、パレスチナに住んでいるユダヤ人は、同じ人種ではない。英語では反ユダヤ主義のことを、「Anti-Semitism」(反セム語族主義)というので、英米社会でも白人のユダヤ人の正体は案外知られていないのかもしれない。
先々週の東洋経済の歴史特集のなかで、このウェーバーの強弁を論破しているが、現代では白人ユダヤ人のことを、アシュケナージ・ユダヤとか、国際金融資本と呼んでいる。もともと彼らは8〜12 世紀に黒海地方のコーカサス地方にいたカザール王国のカザール人が源流であるといわれている。カザール王国とユダヤ人の関係は、以下のようであった。


ハザール(カザールとも表記される)とユダヤ
ハザールのユダヤ教受容は非常に有名であるが、改宗に関する史料は少なく、その時期と実態は謎に包まれており、さまざまな論争を呼んでいる。
西欧ではアクイタニア(アキテーヌ)のドルトマルが864年に書いたマタイ伝の注釈のなかで、ハザールの改宗に触れているので、864年以前であることは確実であろう。アラブのマスウーディーは、ハザールの王(ベク)がハールーン・アッ=ラシード(在位:786〜 809 年)の時代に、ユダヤ教を受け入れ、ビザンツ帝国やムスリム諸国から迫害を受けて逃れてきたユダヤ教徒がハザール国に集まったと記している。
10世紀のコルドバのユダヤ人、ハスダイ・イブン・シャプルトがハザールのヨシフ・カガンに宛てた手紙、いわゆる『ハザール書簡』において、「ブラン・カガンが夢のなかで天使に会ってユダヤ教に改宗したが、民衆が新しい宗教を信じなかったので、ベクが尽力してユダヤ教の普及をはかった」という記述がある。
ブラン・カガンの時代だとすると、730〜740 年頃ということになる。以上のように、改宗の時期や理由を断定することはできないが、9世紀初頭と考えるのが妥当なところであろう。
735 年に、マルワーン率いるウマイヤ朝軍に敗れたハザールは一時的にイスラム教に改宗したものの、アッバース革命に前後するイスラム帝国内部の混乱を機に、799 年にオバデア・カガンは再びユダヤ教を公的に受容した。こうして9 世紀までに、ハザールの支配者層はユダヤ教を受容したが、住民はイスラム教徒が多かったと考えられている。

「ハザールとユダヤ」(フリー百科事典 ウィキペディア日本語版、2016 年9 月13 日 より一部引用)



このカザール人は、アラブ人であるパレスチナのユダヤ人とは何の関係もない。ロシア、ポーランド、ドイツに住み、ハンブルグで金融業(シェークスピアの『ベニスの商人』に登場するシャイロックのモデルとしてヨーロッパ中から嫌われていた)を営んでいた。その代表が、ロスチャイルドである。

国債金融資本とヘゲモニー国家の誕生

この国際金融資本は、中世の時代にヨーロッパの王族や戦争に金を貸し付けて大儲けし、ナポレオン戦争で敵(フランス)、味方(英国)両方に金を貸し付けて、ヨーロッパ全土を買収できるくらいの金持ちになった。その金が18 世紀の英国や20 世紀の米国を作った。ヘゲモニー(覇権)国家の誕生である。
ユダヤ人には前述したアシュケナージ系と、もともと中東にいたセム語族系の流れをくむ有色人種のセファルディ・ユダヤという系統がある。アシュケナージ・ユダヤとは、ハザール国でユダヤ教に改宗した元ハザール人のことである。
ちなみにアシュケナージとは、ヘブライ語で「ドイツ」を意味し、セファルディは「スペイン」を意味する。ロスチャイルドは、フランクフルト出身である。
ナポレオンとの最後の戦争であるワーテルローの戦いで、英国は国債の発行により戦費を調達。英国が負けることになれば当然、英国の国債は大暴落する。ある日、ネイサン・ロスチャイルドが青ざめた顔をして、急に英国の国債を売り始めた。ネイサンが独自の情報ネットワークをもち、いち早く情報を入手できるのは有名だったので、それを見た投資家らは英国が負けたのだと思い込み、英国債を我先にと売り始めた。英国債は、最終的に大暴落した。
その裏で、ネイサンは秘密の代理人を使って、紙クズ同然となった英国債を買いまくった。翌日、英国勝利の情報とともに英国債は暴騰した。しかしそれは、ネイサンが英国債を大量に買い漁ったあとであった。
多くの投資家と、ほぼすべての名門家系が破産したのに対して、ネイサンは当時としては天文学的な数字である約100 万ポンドの巨利を得た。この日の儲けだけで、財産が2500 倍に増えたと言われている。
このことは後に、「連合軍はワーテルローの戦いに勝ったが、実際に勝ったのはロスチャイルドだった」という諺となって、ヨーロッパに残っているそうだ。ロスチャイルドは、これと同じことを再び繰り返す。FRBを通じて米国の通貨供給量を支配していた1928 年、大恐慌に乗じて巨万の富を築いた。
その資本が、19 世紀の英国や20 世紀の米国のようなヘゲモニー国家を作ったのであって、決して教会への寄付をやめたからではないと筆者は考えている。
今、その米国がヘゲモニー国家でなくなろうとしている。21 世紀の国際金融資本が支えるヘゲモニー国家はどこだろうか。世界史の大きな潮目が、もうすぐやってくる。

※本記事はIS magazine 2016 Autumnに掲載されたものです。(c)IS magazine 2016