【第174回】日本のサービスと日本のITサービス

2012年の尖閣問題と韓国の朴槿惠(パク・クネ)大統領の反日発言によって、中国人や韓国人が日本人のことをどう考えているのかという記事がリアルタイム(いちいち翻訳されて)にネット上に氾濫するようになり、今まで中国国内・韓国国内でしか報じられていなかった彼らの考えや意見をかなり目にするようになった。
その中で欧米人含めてよく賞賛されるのが日本のサービスについてである。
ファミレス、デパート、コンビニ、ホテルと、外国人は日本のサービスの素晴らしさを異口同音に絶賛している。筆者もさもありなんと思っていたが、最近違うように考えるようになった。それは外国人の美しき誤解によるものではないかということだ。

誤解とは何か?即ちそれは“階級差”である。日本には階級というものは存在しない。だが日本以外の国は階級社会なのである。それゆえ、サービスを受ける側とサービスする側には厳然とした階級差が存在するのである。生活区域が全く違う。そういう外国人から日本のサービスを考えると、日本の下層階級(サービスする側)の人間はいかに訓練されていて従順で身分をわきまえていると見えて、日本のサービスされる側(支配階級)は下層階級に対するしつけが行き届いていることに驚嘆するのではないだろうかと。
なぜかと言えば、外国人はコンビニでレジを打っている人間が銀座のロオジエでクリスマスディナーを食べることなど絶対ないと思っているからである。
ファミレスで笑顔で頭を下げているおばちゃんが、豪邸に住んで高級エステに毎週通い、お正月はハワイの5つ星ホテルに泊まっているなどとは全く考えないからである。
毎日せっせと働いている佐川急便のお兄ちゃんが、休日にポルシェを乗り回しているなどとは全く思わないのだ(実際、佐川急便は給与を100万位もらうそうです)。

そうなのである。日本には階級が存在しない。

誰もがエルメスを買うことが出来て、誰もがグランメゾンで食事が出来て、お金さえあればフリーターがフェラーリを買うことも出来るのである。
筆者の秘書が英国に留学していた時に、ワーカー(労働者階級)の家に下宿していた。あるときロンドンのハロッズ(新宿の伊勢丹か日本橋の高島屋のような高級百貨店)に買い物に行ったところ、下宿のおばさんが“あんな高いところに何の用事があるのか?”と詰め寄ったらしい。階級社会では買い物も決まった階層で閉じているのである。ファミレスで働いているおばちゃんが日本橋高島屋には行かない(行けない)のである。

日本のサービスは一種のロールプレイングゲームなのである。たまたまコンビニでバイトしているのでコンビニのマニュアル通りに頭を下げているだけであり、たまたまファミレスで働いているのでファミレスのマニュアル通りに頭を下げているのである。
決して上流階級の人間に対してうやうやしく仕えているわけではないのである。ロールプレイングゲームなので特にプライドが傷つくこともなく、劣等感を感じることもなく、また、工場などでも改善活動や提案を上に向かって積極的にこなすのである。

我がIT業界もサービス産業でこれと同じかと思えば実はそうではない。
日本のIT業界のサービスは“SIの人月商売”や“多重下請け構造”によって支えられている。
これは日本独自の長年の慣習である。
日本のIT業界のサービスはお金による階級社会なのである。それゆえ不健全である。一方通行である。改善など全くない。一度客先に出向して常駐するようになると、派遣先との主従関係は永遠に変わらない構造をしている。それゆえ、デスマーチ・プロジェクトに入っても失敗するまで粛々と派遣先SEの間違った設計を具現化するしかないのである。
これはまさに階級社会におけるマスタースレーブの関係で、主人に隷属する奴隷の関係となる。それゆえ、下層階級の奴隷は主人のためにそれ以上のサービスを提案したり、主人の間違った設計を諌めたりすることはなく、業界全体が発展することもない。階級社会、カーストの中で下層階級は責任のない仕事を与えられ、必ず対価をもらうように出来ているのである。
これは日本のIT業界にしかない、いわゆる大川功モデルである。派遣されたPGやSEは自分の意志など全くなく、派遣先のSEから命令された仕事をただ機械的にこなせばよいのである。決して提案したり口答えしたりしてはいけない。その代りプロジェクトが失敗してもIT奴隷ににその責任はなく対価も支払われるのである。
それは派遣業という名のSIerにとっても派遣元の会社にとっても蜜月の関係なのである。この大川功モデルが日本のIT社会の歪みを生み出していると今さら言っても状況は多分変わらない。IT土方という階級社会が永遠に続くのである。
これがなぜ具合が悪いかといえば、せっかく理科系でたくさん勉強してIT業界に入った才能がただのワーカーで終わってしまうことである。これは人材の無駄である。銀行員になるのも大変な人材の蕩尽であるが、それに匹敵するくらい派遣IT人材の使い捨て加減はひどい。数年もしたら社畜化して意思を持たない奴隷になってしまうのである。筆者も20代に最初に入った会社がそういう会社であったので、IT企業に入社しながら、人材派遣業の片棒を担ぐという矛盾を繰り返していたのである。この人材の蕩尽が日本のIT産業を衰退させている。かつてIT投資が会社の重要な投資であった70年代80年代のSEと現在の3K 商売のSEでは明らかに人材のレベルが違う。もう世界に発信するに足るイノベーションの活力はない。すべてのイノベーションは海外からやってくるのである。日本で創造できるのは人材派遣のないゲームソフトくらいではないか?

今こそ日本のITサービスの質を向上すべしと思うのだが、外国人に評価し直してもらえば体制は変化するのでしょうかね?永遠の課題であります。