【第172回】なぜ日本人は掃除機が作れなくなったのか?

日本の家電メーカーの凋落が騒がれてから久しい。アップルに敗け、サムスンに敗け、LGに敗け、ファーウェイに敗け、レノボに敗け、ダイソンに敗け、日本の家電業界が世界に敗けだしてからどの位経っただろうか。
その日本の家電の衰退の象徴であるものが“掃除機”であると筆者はみている。
日本の家電が世界で通用しなくなった原因を、ある人は、新興国の値段との競争に敗れたせいだと喝破していた。またある人は、仕組みがアナログからデジタルになって誰でも同じ品質のものが作れるようになったからであると主張した。
だが、筆者はこれらの解説が今一つ腑に落ちない。なぜならば、以下の掃除機の人気ランキングを見る限り、値段が安いとかデジタル化とは無縁な要素で三菱もパナソニックもシャープもサンヨーも日立も東芝も敗けているからである。

ちなみに、価格comの人気掃除機ランキングを見ると以下のようになっている。


  • 1位 ダイソン Dyson Digital Slim DC62 モーターヘッド 最安値:¥46,500
  • 2位 ダイソン DC61 モーターヘッド 最安値:¥30,170
  • 3位 東芝 トルネオ ミニ VC-C3最安値:¥22,699
  • 4位 レイコップ レイコップRS RS-300J 最安値:¥24,380
  • 5位 iRobot ルンバ880 R880060最安値:¥65,800
  • 6位 iRobot ルンバ620 最安値:¥31,566
  • 7位 ダイソン Dyson Digital Slim DC62 モーターヘッド コンプリート 最安値:¥57,694
  • 8位 シャープ FREED EC-SX200 最安値:¥34,978
  • 9位 東芝 トルネオ ヴイ VC-SG513最安値:¥39,770
  • 10位 ツインバード TC-E123最安値:¥2,500
  • 11位 iRobot ルンバ871 R871060 最安値:¥51,395

(以上、2014年9月11日時点のランキング 出典:価格com)


ここ数年、世界の家電業界では掃除機の大ヒット作が相次いで登場しマーケットシェアを激変させた。もちろん、それぞれ画期的なイノベーションをひきさげて世界の市場に受け入れられている。その代表選手がダイソンである。これはサイクロン掃除機の走りで10万円近くするものも飛ぶように売れている。次はアイロボット社のルンバである。これも10万円近くする掃除機が爆発的ヒットを記録して、もともと軍事用のロボット専業であったアイロボット社の主力商品になっている。次は韓国のレイコップである。こちらはダニやハウスダスト専用の掃除機としてヒットを飛ばした。
ダイソンもルンバも安売りをして儲かっている製品ではない。決して新興国から発信した製品でもない。

ここで不思議なのが、これらの製品を日本の名だたるエンジニアがいる家電メーカーでなぜ作れなかったのかという問題である。
パナソニックや東芝や日立という名門会社のエンジニアがなぜ誰も掃除機を開発できなくなってしまったかという問題である。これは日本のすべてのメーカーの問題であると思うのだ。

“なぜ日本の家電メーカーは人々に受け入れられる掃除機を作れなくなったのか?”
この問題を根本的に解決しないと日本の家電がグローバルに戦ってゆくことは難しいのではないかと思うのだ。日本の製造業のどこかが狂ってきているのであろうか?それとも日本人のイノベーションや問題解決に対する能力が劣化したのであろうか?
日本人が掃除機を作れなくなってしまった今、日本のエンジニアの将来もなくなってしまったのだ。日立、三菱、東芝、パナソニック、シャープ、それぞれの会社の風土とイノベーションの環境はまったく違うし商品開発に対するポリシーも異なる。
だが、共通して言えるのはもはや日本のエンジニアに掃除機を作る能力はないという事実である。同様のことはテレビでも起きている。携帯電話でも起きている。パソコンでも起きた。日本は技術大国と自画自賛しながら潜水艦とか飛行機とか高速鉄道とかは作れるが、掃除機は40年前のものしか作れない。これはなぜなのだろうか?家電のエンジニアだけが特別優秀でない理由があるのであろうか?

同じような問題はIT業界にも存在する。
日本の銀行のオンラインシステムは第3次オンラインまで世界で最高峰のシステムであった。
(以下引用)


・第1次オンラインシステム – 1960年代半ばに構築
勘定系システムの構築。本店と支店のオンラインによる結合。左記による現金自動預け払い機(CD)での預金の預け入れ・引き出しの実現。自動引き落しサービス、振り込みサービスの提供など。
1965年5月、三井銀行(現:三井住友銀行)で日本初のオンラインシステムが稼動。IBM 1410とIBM 1440をそれぞれ二重化したシステムであった。1960年代終盤には他の都市銀行がこれに追随した。地方銀行、相互銀行、信用金庫がオンラインシステムを導入するのは1970年代に入ってから本格化した。

・第2次オンラインシステム – 1970年代半ばに構築
勘定科目毎に構築されていたオンラインを、連携処理する総合オンラインシステムへ再構築。他行、金融機関同士をオンラインで接続。左記による総合口座の登場。金融機関相互のCD、現金自動預け払い機(ATM)ネットワークの出現。ファ-ムバンキング・ホームバンキングの登場。

・第3次オンラインシステム – 1980年代半ばに構築
経営情報の集約、情報系システムの強化による営業管理、収益管理の強化。ALM(Asset Liability Management、資産・負債管理)。

(以上、ウィキペデイアより引用)


それが30年以上も経過した今、日本はグローバル金融に対応するための24時間グローバルオンラインの構築ができないで右往左往している。相次ぐメガ銀行の合併によりシステムトラブルで頭取の責任が問われたり、新聞で社会問題になったりするような状況で、銀行業務で一番重要なシステムインフラをいつの間にか銀行員はいじれなくなってしまったのである。すべて外注メーカーの言いなりである。これはなぜなのだろうか?
第3次オンラインの頃のように大型汎用機でシステムを構築すると、もともとの設計がバッチ中心主義なのでオンライン処理を稼働するためにどうしてもバッチ処理をせざるをえない。銀行の勘定系は今でもそういう仕組みになっているのである。これにより24時間グローバルでシステムを動かすということができないのだ。昔は国内の支店の業務に合わせて15時には支店の窓口が閉まるのでバッチを動かすことができたが、グローバルになると地球軸を24時間窓口が動くことになるのである。これに対応する仕組みを日本の銀行は持っていない。
また、日本の自動車産業はグローバルで車を販売しているにもかかわらず“フルオプションの2週間納車”がいまだに出来ない。ついでに言うと、部品表が統合化されていないので国別の垂直生産は出来るが、売れる場所で自由自在に水平生産することも出来ていない。タイのAという部品と日本のAと米国のAの部品は同じではないのである。
また国際会計基準IFRSが普及する時代になっているにもかかわらず、いまだに時間軸をもっていないERPを会計システムとして購入しようとしている。

これらの難問題に日本のIT業界は誰も提案していない。
問題は、実は掃除機だけではないのである。
明日を拓くためにも我々はもう一度「なぜ日本のエンジニアは掃除機が作れなくなってしまったか?」という問題に取り組む必要があるのではないだろうか?