【第169回】クラウドとは何か?<改定版>

その答えを見つける前に、クラウドが出現した背景を説明してみよう。
2005年のおそらく5月頃のことである。筆者はあるパーティーで当時日本グーグルの社長であった、村上憲郎氏と名刺交換をした。
その際に筆者は「御社は検索エンジンの会社ですね」と言ったところ、「いえ、ハードウェアの会社です」と意外な答えが返ってきたのである。よくよく話を 伺ってみると、グーグルは膨大なハードウェア(サーバー)をすべて自前で作っている世界最大のハードウェア・ベンダーだったのである。外販していないので 知られていないだけである。
グーグル社のサーバー数は、2004年の上場時で5万台前後であったが、3年後の2007年時点では50万台前後、それが2011年では100万台にまで 増殖しており、これは全世界のサーバーの10数%に相当するような地球規模のリソースなのである。データセンターもアメリカのオレゴン州ダレス、ノースカ ロライナ州レノア、サウスカロライナ州バークレー、オクラホマ州プライア、アイオワ州カウンシスブラフス等38箇所に散在する。ちなみに、日本で年間に出 荷されるサーバーの台数は約60万台である。
アマゾン50万台、マイクロソフト50万台で、世界で出荷されるサーバーの20%をヤフー、アマゾン、マイクロソフト、セールスフォース、IBM、グーグ ル等の米国のクラウドベンダーが購入している。しかも彼らはその膨大なリソースをほとんど無料でユーザーに提供していたのである。

cloud1-1

上の図を見ていただきたい。100坪の土地を利用するためには連続した物理的な土地が100坪存在しなければならない。これは当たり前の話である。ゆえに不動産のことを英語では「Real Estate」と言う。
ところが、コンピュータ上の土地である、100MBの領域であったならばどうであろうか?これはネットワークさえつながっていれば、フランスのサーバーか ら10MB、ドイツのサーバーから20MB、日本のサーバーから30MBと、世界中のサーバーからリソースを切り貼りして100MBを提供することが可能 となる。
グーグルやアマゾンのような膨大なコンピュータ・リソースを保有している会社は、この余ったリソースを寄せ集めてサービスとして提供することを思いついたのである。これがクラウドの始まりである。
ネットワーク(雲)の向こう側のリソースを安価にユーザーに開放することによって、ハードウェアリソースを自前で持たない世界を実現する流れである。

●オンデマンドとオンプレミス
最近コンピュータ業界でオンプレミス(On-Premises)という言葉が流行している。
昔筆者が大型汎用機のSEをしていた頃(90年代初頭)、いきなりレガシーという言葉が出てきて、自分たちが何十年も扱っていた大型汎用機が突然レガシー ということなって、“いままで俺たちがやっていたマシンはレガシーだったのか”と目が点になったことがかつてあったが、現在のクラウドの世界でも同じこと が起きている。オンプレミス(On-Premises)である。
いままでの普通のサーバー群をオンプレミスと呼び出したのだ。
これは、オープンの時代に旧型の汎用機をレガシーと命名した時と似ていて、クラウドによるオンデマンド(On-demand)の対語として、旧来型の自社 でハードウェアを運用することを半ば揶揄してできた造語であり、最近になって(クラウドが登場して)使われだした言葉なのである。

cloud1-2

cloud1-3

 

●グリッド・コンピューティングとユーティリティ・コンピューティングとクラウド概念の比較
グリッド・コンピューティング(Grid Computing)分散コンピューティングとは、ネットワークを介して複数のコンピュータを仮想的な高性能コンピュータを作り、利用者はそこから必要なだけ処理能力や記憶容量を取り出して使うシステム(以下引用)


処理能力や記憶容量など、コンピュータの持つ計算資源を必要なときに必要なだけ購入して利用する方式。「ユーティリティ」(utility)とは電気・ガ ス・水道などの公共サービスのことで、コンピュータの提供する能力を公共サービスのような形態で利用するモデルのことを指す。
現在、コンピュータによる情報処理や記録が必要な場合、コンピュータ自体を購入して保有し、これを利用する必要がある。企業の基幹システムに使うサーバな どは、ピーク性能に合わせて高価で高性能な機種を用意しなければならず、普段はCPUやメモリのほとんどが遊んでいることが珍しくないが、アクセスが想定 外に急増すると対応できずにシステムがダウンしてしまうことがある。また、性能を高めるには機器を買い換えたり買い足さなければならない。
こうした状況は、電気を得るために発電機を買ったり、飲み水を得るために浄水場を建設するようなもので、個々の企業や個人がこうした投資を行うのはいかに も効率が悪い。そこで、公共サービスをモデルに、コンピュータや記憶装置を大量に設置した施設を作り、ネットワークを通じてその資源を企業などに提供する という利用形態が考案された。これがユーティリティコンピューティングである。これにより、CPU性能やメモリ、ディスクなどの容量を、必要なときに必要 なだけ利用し、使った分だけ料金を支払うという環境が実現する。
公共サービスのように汎用的なユーティリティコンピューティングサービスはまだ実現しておらず、技術基盤や標準の開発・策定が待たれる状況にある。しか し、一部の大企業などではサーバやストレージを集約して仮想化し、必要な部門(あるいはアプリケーション)に必要なだけ資源を提供するというシステムが採 用されており、コンセプトとしては一部実用化されているとも言える。
(以上、IT用語辞典より引用)


クラウドコンピューティングは、上記2つの概念を継承してネットワークにつながった複数のコンピュータ・リソースをまとめて1つのコンピュータとみなし、 大規模なコンピューティング・リソースを必要とする演算処理を分散処理させるというグリッド・コンピューティングの概念を継承し、電力・水道・ガスと同じ ように実際に使用した分だけ料金を支払うという、ユーティリティ・コンピューティングの概念を継承している。
この他にも、オンデマンド・コンピューティング、ユビキタス・コンピューティングの概念も包含していると言えるだろう。

●サービス形態 -ASPとどう違うのか?
従来、インターネットを通じてアプリケーションソフトのサービスを受けることをASP(Application Service Provider)と呼んでいた。これとクラウドのサービスはどう異なるのであろうか?

cloud1-4


ASPとは、インターネットを通じてアプリケーションを顧客に提供する事業者のことである。ASPは自社の保有するサーバーにアプリケーションソフトをインストールし、そのアプリケーションソフトをインターネット越しにレンタルしている。
顧客(クライアント)は、Webブラウザを用いてアプリケーションにアクセスし、自分の業務に利用することができる。
ASPによってアプリケーションをレンタル利用することには導入費用や手間などを大幅に削減することが出来るメリットがある。
ユーザーのパソコンには、個々のアプリケーションソフトをインストールする必要がなくなるので、企業内の情報システム部門の負担であるアプリケーションのインストールや管理、およびそのアップグレードなどを独自に行わなくて済むようになる(以下略)
(以上、IT用語辞典より引用)


クラウドでは、上記のASPのサービス概念をさらに進化させ、SaaS(サーズ)、PaaS(パース)、HaaS(ハース)、IaaS(イアース)という4段階のサービス形態を提供している。
SaaSとは、Software as a Serviceの略で、アプリケーション・ソフトウェアの機能をインターネット上で提供するサービスのことで、クラウドでは一番最上位(エンドユーザーに 近い)レイヤーのサービスとなる。弊社「ECObjects」や「HR&Payroll」のクラウドサービスや、グーグルのApps for Business (Gmail, Googleドキュメント)や、セールスフォースのCRMなどがこれに相当する。
PaaS(Platform as a Service)とは、アプリケーションを稼動させるプラットフォーム機能をインターネット上で提供するサービスで、アマゾンのAWS、NTTコニュニ ケーションズのCloudnや IBM Smart Business Cloudがこれに相当する。このサービスは、CPU、OS、ミドルウェア、データベース環境をデフォルトで提供し、利用量に応じて課金する仕組みとなっ ている。アプリケーション以外のすべてのソフトウェアが提供されるサービスである。
IaaS(Infrastructure as a Service)はそれに対して仮想マシンとOSだけを提供するサービスである。NIFTY CloudやIBMが最近買収したSoftLayerがそれに相当する。IaaSは、PaaSのサービスからミドルウェアやDBを抜いたサービスで、ユー ザーはCPU、メモリ、ハードディスク、ネットワーク、OSのみの、何もインストールされていない環境を提供され、そこにミドルウェアやDBやアプリケー ションを構築して利用するというサービスである。
HaaS(Hardware as a Service)は仮想マシンのみを提供するサービスで、ユーザーはOSやミドルウェアやデータベースを自前で調達しなければならない。NTTコミュケー ションズのBizホスティングがそれに相当するサービスであるが、仮想マシンなのにセンターコンソールが使えたりするので、以外に融通がきく面もある。こ れらはVMなどの仮想化技術を使用しなければ、本質的にはレンタルサーバーと何ら変わりはない。ただ実際の物理ハードウエアを使用しないので、短時間で サーバーを立てることが可能となる。

●スケールアウトとスケールインとは何か?
スケールアウト(scale out)スケールイン(scale in)とは何か?
スケールアウトとはスケールアップの対語である。
IT用語辞典にはこう書いてある。


スケールアウト 【 scale out 】
サーバの数を増やすことで、サーバ群全体のパフォーマンスを向上させること。1台のサーバが仮に10人のユーザしか処理できないとしても、サーバを2台に増やして負荷を分散すれば20人のユーザに対応できる、という理屈である。
スケールアウトした場合、複数のサーバを連携して動作させることになるため、メンテナンスや障害発生時にもサービスを完全に停止させる必要がない点が利点 となる。反面、サーバの台数が増えるために管理の手間が増大し、ソフトウェアのライセンス料金も高額になりがちなことが欠点とされている。
複製や同期が容易であり、また複製しても問題の起きないデータを扱う場合には、1台のサーバで機能や性能を強化する「スケールアップ」よりもスケールアウトの方が適していると言われる。
(以上、IT用語辞典e-wordsから引用)


この機能はIBMの戦略機種PureSystems辺りから生まれ、現在ではアマゾンAWS、NTTコミュニケーションズのCloudnにも実装されている。
物語はこんな感じである。

昔むかしあるところに孫悟空というサーバーがいて閻魔大王というトランザクション軍団と戦っていたとさ。
あるとき閻魔大王が普段100人しかいないトランザクション軍団を600万人に増強して、孫悟空に戦いを挑んだそうな。多勢に無勢で形勢不利の孫悟空は、 自分の髪毛を抜いて分身の術を使い、1,000台のサーバーに増殖 scale outしなそうな。孫悟空サーバーは見事に閻魔大王のトランザクション軍団を壊滅させて、再び一台のサーバーに戻ったとさ。めでたしめでたし。

東証の平成24年2月2日の株式売買システムの障害では、3台のサーバーの切替がうまくゆかず売買が停止して社長と4人の役員の減給が実施された。こんなときに仮想空間で自由にスケールアウトできる機能がれあばこんな事故は起きなかったかもしれない。
ちなみに最新のアマゾンやCloudnのサービスでは、サーバーだけではなく、スケーラブルロードバランサ(LBA)といって、ロードバランサ自体も自動的にスケールアウト、スケールインするようになっている。
もっと最近ではDNSラウンドロビンという機能もある。Webのシステムでトランザクションが10,000倍とかに増殖したときにこれらの機能は威力を発揮するのである。

cloud1-5

●クラウドによって何が変わるか 【その1】
-買うから利用するへ(所有から非所有へ)-
現在SAPなどのシステムを立ち上げようと思ったら、以下のような資産(asset)を購入しなければならない。
パッケージ n千万
サーバー、ルーター等のハードウエア n百万
Oracleデータベース n百万
WebLogic等のミドルウエア n百万
カスタマイズ費用 n千万

これによって合計n千万から億単位の費用がかかる。
これらの資産はBS(貸借対照表)に資産として計上され、3年償却や5年償却で処理されることになる。またこれらの予算を確保するために、数年レンジでの 予算化申請をしたり役員会の稟議申請を行なわなければならないので膨大な事務処理や社内根回しが必要になる。当然必要なときにタイムリーにシステム化でき ない。

これがクラウドの世界になると月々の利用料を支払うだけなので、利用者100人に対してクラウドアプリケーション利用料1,000円/一人月額で100人 ×1,000円=10万円、それにクラウドハードウェア利用料 10円×24h×31日(一ヶ月)=7,440円で、合計10万7,440円で稼動させることが出来るのである。
これは資産計上されず部門の経費で落ちるので稟議も不要であるし、決断も実行も早い。

かつて80年代までのIBMのハードウェアはリースのみであった。販売はしなかったのである。それゆえユーザーは革新的に進歩する当時の大型汎用コンピュータを少ない予算で次々とバージョンアップすることができた。
クラウドはちょうどそのモデルに回帰するのである。
また、絶え間ないバージョンアップに追加費用を求められることにうんざりしているユーザーも“所有せず利用する”ことによってその追加料金から開放されることになるのである。
現在弊社にもWindows2003サーバーのサポート停止に伴うWindows2008サーバーのバージョンアップや、Windows7対応などの依頼 が来ているが、オンプレミスで所有せずクラウドで利用するだけならばこれらバージョンアップによる追加費用は今後一切必要なくなるのである。

cloud1-6

●クラウドによって何が変わるか 【その2】
-アプリケーションプロダクトのパラダイムシフト-
1990年代、ネオダマという言葉があった。ネはネットワークのネ。オはオープンのオ。ダはダウンサイジングのダ。マはマルチメデイアのマである。
大型汎用機全盛の恐竜時代からUNIXサーバーやPCやインターネット全盛のオープン時代に移行した時代の流行語である。1990年代初頭、インターネットはUNIXサーバー間で利用されており、PCからアクセスしているユーザーは稀有であった。
筆者はWindows 3.1のPCからPPP(Point to point Protocol)を使ってインターネットにアクセスしていて当時唯一のブラウザであるモザイク(Mosaic英語ではモゼークと発音する)を使って一晩 中ネットサーフィンを楽しんだ。そのころ世界中のサーバーは100台に満たず、日本に存在するWWWサーバーは国立がんセンターやノートルダム女子大くら いしかなかった時代である。
その時代(1990年代)を通じて業務アプリケーションソフトの自然淘汰が進んだ。
それまで、業務アプリケーションは汎用機の上でしか動かず、経理や生産管理や銀行のオンラインのシステムはすべて汎用機上で動くように設計されていて、 COBOLやFORTLANでPL1で記述され、UNIXサーバーやPCの上では動かなかったのである。もちろんインターネットの上でも動かない。
GUIもダム端末と呼ばれるテキストのみの画面で、現在のようにラジオボタンやドラッグ&ドロップやクリックしたりするGUIは存在しなかった。もちろん 図もグラフの図面も表示できない。その汎用機のダム端末の環境から、WindowsのGUIを使用するためには、レガシー汎用機上のCOBOLなどの高級 言語ソースコードを全面的に書き直す必要があったのである。
その10年間でレガシーパッケージはオープンのインフラに乗せるために、C言語やJavaやVisual Basicのようなオープンな言語で書き直さなければならなかった。SAPなどのERPもそのような流れの中で主流となったのである。
その恐竜時代からオープン時代への流れの中でほとんどのレガシーアプリケーションは移植されず淘汰されたのである。
いま到来しているクラウドの時代はまさにそのオープン時代と同じ現象を引き起こすことになるであろう。即ち非クラウドのパッケージやソリューションは移植不能で、次の時代には存続できないのである。
ここで激しい淘汰が進む。
しかもクラウドは価格体系が格段に安いので、100億も200億も移植にかけたならばとても採算が取れない。もとが取れないのである。現行のERPやVB で書かれたパッケージやクライアントサーバーモデルで作成されたアプリケーションパッケージはすべてJavaやPythonに書き直し、DBやミドルウェ アも商用のOracleやWebLogicなどからオープンソースの(即ち無料ということだが)MySQLやPostgreSQLやApacheや GrassFishなどに移植しなおさなければならないということを意味する。
これは膨大な再開発投資である。言語とDBとミドルウェアインフラを全面変更しなければならないからである。巨大ERPはすでにこのために新規の開発投資を凍結している。
賢いユーザーはこれから業務アプリケーションを導入するにあたって、近い将来利用できなくなるオンプレミスのプロダクトを選択しないであろう。
この数年で給与計算や経理パッケージや生産官営パッケージの主流が変化することは間違いないからである。

cloud1-7

●クラウドによって何が変わるか 【その3】
-OS/DB/ミドルウェアのオープンソース化-
現在データベースの主流はOracleである。OSの主流はWindowsである。
この磐石の寡占ビジネスがクラウドの登場によっていままさに崩壊しようとしている。
クラウドで採用されるミドルウェア(APサーバーやDB等のインフラソフト)は基本的に無料(フリー)のオープンソースが採用される。
商用DBの雄OracleのかわりにGoogleが採用しているMySQLやPostgreSQLが採用され、WebLogicやWebSphereに代 表されるAPサーバーにはApacheやGrassFishのフリーソフトが採用される。また、OSはセキュリテイが弱いWindowsサーバーではな く、より堅牢なLinuxサーバーが採用される。しかもそれはライブラリが有料のRed Hatではなく、SUSE LinuxやCentOSのようなオープンソースが主流をしめるであろう。
IBMのSmart CloudサービスのようなPaaS(Platform as a Service)ではミドルウェアもサービスのなかに組み込まれているのでこの限りではないが、NIFTY CloudやAmazonのEC2のようなIaaS(Infurastructure as a Service)では、OSくらいしか提供しないので、選択肢はどうしても非商用のオープンソフトにならざるを得ない。そうなると今までIT業界で覇権を 握っていたOracleやWebLogicのような代表的商用ミドルウェアは使用されなくなるのである。
ここに大きな世代交代がはじまるのである。
昨日までの覇者がこれからは敗者となる壮絶な世代交代がいまから始まろうとしている。
この段階で最悪のIT投資は、非クラウド対応のERP(クラウドERPは現段階ではこの世に存在しませんが)+商用DB+大規模サーバーである。これは自殺行為となるかもしれない。

cloud1-8

●クラウドによって何が変わるか【その4】
-水平分業からサービス統合の時代へ-
クラウド以前のオンプレミスの時代にはアプリーケーションソフトの購入、ミドルウェアの購入、DBの購入、OSの購入、ハードウエアの購入をすべてメーカーやベンダー別に注文しなければならなかった。
そして、そのメーカー毎に見積書、注文書、注文請書、発注書、納品書、検収書を発行するともに社内手続きを踏まなければならなかった。
ところがクラウドの時代になるとSaaS業者が顧客と一本の契約で完了する。
たとえば、HR&PayrollオールインワンパッケージサービスでECM社と契約を結べば、あとはどのベンダーとも契約する必要がない。これが、水平分業からサービス統合の時代への変化である。
これにはもうひとつ大きな変化が伴う。オンプレミスの時代には物を売り買いしていたので(要するにパッケージを仕切値で代理店に卸してその商品を代理店が エンドユーザーの販売していた)ので、物が流れる商流が存在した。商流が存在するということは商圏が存在した。すなわち同じ人事、給与、勤怠システムでも すでにA社の製品を扱っている代理店はB社の製品を同時に扱うことはなかったのである。その理由は物を売るとそれに対するマーケティングや営業部隊やカス タマイズチームやサポート部隊などのリソースが必要となる。同じような製品を2つも3つも扱うとそのリソースが無駄になって非効率になるからである。ま た、いろいろなものを担いでいると同業他社と不要な安売りコンペになるので商売上も得策ではない。
これがクラウドの時代になるとどう変化するか?
クラウドはいわばソリューションのサービスを売るコンビニのようなものである。そこにシャンプーを置く棚があって、以前は商圏の関係で花王のシャンプーし か置けなかったが、顧客は利用するだけなので、いろいろなシャンプーを試してみたいと考えるのである。利用するだけだから、いやなら他のシャンプーを使え ばよいのである。ところが、棚には目下のところ花王しかない。となると客は他の店(他のクラウド業者)に行ってしまうのである。そこでクラウドコンビニは 花王だけなく、ライオンやユニリーバのシャンプーも置くようになるのである。クラウドコンビニにしてみれば何のシャンプーを買おうがその店から買ってくれ れば何の問題もないからである。利用するだけで所有しないということは、カスタマイズしないからカスタマイズ部隊がいらない。サポートはトラブル対応の み。選択肢を増やした方が顧客満足度は増すのである。
クラウドによるサービス統合によって、商品としてのソリューションはOne of contents となり、単なるサービスの選択肢のメニューとなる。ユーザーにとっては安価で選択肢の広いサービスが受けられるようになるのである。
そうなると自前主義で自社製品しか扱わなかった大手ベンダーは市場から消え去ることになるかもしれないのである。
ただ、マイクロソフトのクラウドであるAzureはマイクロソフト製品(.NET環境)しか扱わないので、この限りではない。今までどおり非互換的なバー ジョンアップとサポート切れとメーカー主導の価格戦略に悩ませられたいならば、今までどおりクラウドはマイクロソフトにすればいいだけの話である。

cloud1-9

●クラウドによって何が変わるか【その5】
-サービスの立ち上げは1時間-
クラウド以前、オンプレミスの時代には、システムを立ち上げようと思ったら軽く一年はかかった。なぜならばマシンの手配に一ヶ月+ソフトウェアの購入に一 週間+………+データベースのセットアップに一週間 + ミドルウェアのセットアップに一週間 + ネットワークのセットアップに一週間 + ………+ アプリケーションのカスタマイズに一年費やしたからだ。 グローバルSCMを三ヶ月で稼動させたいとユーザーが望んでもこのリードタイムの山は解消できない。
ところがクラウドの環境はすべてがバーチャルなので物理的に購入するものはひとつもない。
ついでに言うと設定も仮想なのであらかじめ用意しておけば一瞬で構築可能なのである。
IBMのスマートクラウドではマイメージという概念があって、HTTPサーバー+APサーバー+DB+アプリケーションのセットをあらかじめ保存しておい てそれを仮想環境で一瞬にして立ち上げることが可能になった。この仕掛けは最新鋭機種のPureSystemsにも応用されていて、トランザクションが増 殖してサーバーのレスポンスが悪化すると自動的にサーバーを増殖させるSFのような機構が実用化されている。
固定IPアドレスでさえも設定して数秒で入手することができるようになっている。
もともとデジタルな信号はハードウェアと無関係に存在しうるのである。

cloud1-10

●クラウドによって何が変わるか【その6】
-ハードウェア構成自由-
NIFTYのクラウドでもそうだが、クラウドは利用しないと課金されないか安価で環境を保持することができる。
そうなると、フォールトトレラントでノンストップの冗長性のあるサーバー構成が安価に構築できるようになる。
たとえば、グローバルSCMのためにフォールトトレラントでノンストップ人事/給与/勤怠システムを構築しようと考えたら、本番系と待機系で二台 (httpサーバー+APサーバー)×2で4台のサーバーが必要になる。それぞれにOSが搭載されてDBが搭載されてミドルウェアが搭載されて、そのバー ジョンアップと保守料がかかる。銀行や証券のシステムでないかぎりこのような無駄な構成は許されない。現実には1台のサーバーだけで構築することになるの である。
これがクラウドになると安価な費用でサーバーを構築でき、しかも地勢リスクも分散できるようなシステムが組めるようになる。 例えば、IBMのスマートクラウドの場合、本番系を幕張に構築して待機系をトロントに構築してDBをミラーリングすれば、関東大震災があって日本中が停電 してもコンピュータは止まらないで運用することが可能になるのである。
グローバルSCMは日本だけの問題ではない。世界中からの利用に耐えられなければならない。
この際注意しなくてはならないのが、米国にサーバーをおかないことである。米国の情報開示のしくみはコンピュータに自由に査察できるようになっているので(NSAの仕事ですかね)、米国の法律の下にあるコンピュータリソースは丸裸である。
ゆえに待機系は米国以外がよいと筆者はひそかに考えている。

cloud1-11

●クラウドによって何が変わるか【その7】
大多数のユーザーは、ハードウェアメーカーやソフトウェアベンダーの勝手なバージョンアップ戦略やサポート停止のおかげで、きちんと動いている端末やサー バーを買い換えたり、不要なデータ移行を強いられたことがあると思う。この原因はソフトウェアの稼動環境とハードウェアのスペックが密接に連動していたか らである。このセット販売手法で巨万の富を手に入れたのが、マイクロソフト・インテル連合である。マイクロソフトがPCのOSのバージョンを上げる度に PCのメモリもハードディスクもCPU速度も足りなくなって、せっかくきちんと動いているアプリケーションを捨てなくてはならなくなるのである。これは目 に見えない多大な保守料である。我々はハードとソフトの連動のおかげでこのアップグレード作戦にまんまと乗せられてきたのである。不要なニーズを突きつけ られてしぶしぶソフトをアップグレードしたり、ハードを買い換えたり、アプリケーションをバージョンアップしたりしていたのである。
クラウドはハードとソフトの境界線がない。それゆえに、クラウド上に環境を移せばソフトもOSもDBもミドルウェアもアプリケーションもバージョンアップする必要は全くない。下手をすると、Windows2003のサーバーを22世紀まで運用することも可能なのである。
これによって、エンドユーザーはメーカーやベンダーの都合によるバージョンアップのサポート切れの恐怖から解放されるのである。長年安定して稼動してきた 環境をずっと使い続けることができるのである。これはユーザーにとっては大きな福音である。 IBMの最新マシン PureSystems は、コンピュータと名のつくものであれば全て稼動するように設計されている。NECのOSもアップルのOSもDECのOSもすべて稼動する。これは筆者が 昔いた UNIVAC、すなわち、Universal Computer である。
最新のクラウドは、このように脱ハードウェアを徹底しているのである。この大革命はまだ衆目の一致するところとはなっていない。クラウドが持っている潜在能力でもあるのである。

●オンプレミスベンダーの憂鬱 クラウドの覇者は誰か?
クラウドは現時点でサービスも実行環境のコストも実用化の段階にきている。
IBM Smart Colud も他社の先鞭を切ってスタートしたが、ここに来てSoftLayer社を突然買収してクラウドサービスを一旦外だしして、なおかつサービスレベルもPaaSからIaaS、HaaSへと後退しているように感じる。
OracleもNECも富士通もHPもクラウドを本気でやっているようには見えないのは筆者だけだろうか?
実は従来のハードウェアを提供していたメーカー(これをオンプレミスベンダーと呼ぶ)はクラウドのビジネスに対して大きな自己矛盾、利益相反、自家撞着の 構造をもっているのである。オンプレミスを立てればクラウドが立たず、クラウドを立てれば、オンプレミスが立たずという矛盾である。クラウドビジネスは伸 ばしたいが、そのためにハードウェアやミドルウェアやデータベースが売れないのは困るというジレンマである。
その点、NIFTYやIIJのようなネットーワーク業者や、NTTコミュニケーションズのような通信キャリアやアマゾンのような小売り業者はそういう矛盾を持っていない。前向きにクラウドのビジネスを推進する事業構造を持っている。
そういうわけで、ここ数年のクラウドのメインプレーヤーはこうした事業構造に矛盾を抱えていない、非オンプレミスベンダーが担うのではないかという予測である。

cloud1-12

●エピローグ
いまからざっと30年前、情報リテラシーは大型汎用機の中に集約されていた。
UNIVA、IBM、ブル、NEC、日立、富士通等々のメインフレームの中に経理システムも生産管理システムも販売システムも銀行の勘定系システムも統合化されていた。
それが1990年代のオープンの時代になってUNIXやWindowsのサーバーに分散され1企業1台の汎用機が200台のサーバーに分散された。企業はその増殖し続けるサーバーの管理に悩まされいる。このサーバーの分散時代が今また集中の時代に向かおうとしている。
今度の集中は前回とはスケールが違う。地球規模で集中し始めている。それがクラウドである。
現在、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、IBM、セールスフォースの5大クラウドベンダーが世界中のコンピュータリソースの4割から5割を占めようとしている。
このことは世界中のコンピュータリソースが米国に一極集中することを意味している。
これは国防上はとてつもなく恐ろしいことであるが、利便性と価格がこの流れを加速させることは間違いない。日本大手連合がバラバラに覇権を争ってバラバラに米国に媚びていた間にハードウェア戦争には決着がついてしまったのである。
ついでに言えばコンピュータビジネスの決着がついてしまったといえる。これが日本のサラリーマンエンジニアの限界である。
コンピュータの覇権はもう日本にはない。ついでに言うとアプリケーションの覇権を一瞬握ったかに見えたドイツももうすぐ覇権を失うであろう。
この大動乱の時代にわれわれは次の一手を打たなくてはならない。
アプリケーションのクラウド化である。
これさえ乗り遅れたならば日本からハードウェアの工場だけでなく、ソフトウェアの工場も消滅することになるであろう。携帯電話ガラケーの二の舞になる。
大きなパラダイムシフトが始まろうとしている。
“所有するから利用するへ”この大動乱のシナリオを征するものはだれか?

これは短期決戦になるであろう。時代の潮目がすぐそこに来ている。