【第159回】中国の未来とカントリーリスク その1

尖閣問題が起きるまで日本人は中国人のことをあまり深く考えてこなかった。 尖閣問題で両国間で戦争が始まろうとしているこの瞬間になって初めて日本人は中国のカントリーリスクの大きさに気づいたのではないか。
同様のことは韓国でも言えて、この両国が実は反日教育を今でも行なっていて日本人と友好な関係を築くつもりがないということを我々は領土問題を通じて思い知らされたのである。

中国の抱えるカントリーリスクはたくさんある。 不動産バブルの崩壊、高齢化、ハイパーインフレと賃金上昇、民族紛争、共産党一党独裁、近隣諸国との領土紛争等々。

今回はその中で、中国のアフリカ化という問題を考えてみた。近未来の中国はアフリカ諸国と同じ運命を辿るという予測である。
それを考察してみたい。

「ルポ資源大国アフリカ-暴力が結ぶ貧困と繁栄」という本がある。著者は、白戸圭一氏で毎日新聞のアフリカ特派員である。 この本は、現在のアフリカを知る上でとても貴重な本である。
南ア、スーダン、コンゴ、ナイジェリア、ルワンダ、ソマリアのアフリカ動乱の背景が命がけの現地取材とインタビューで構成されており、これ1冊で現代のアフリカ大陸が判ると言っても過言ではない。
現在のアフリカはエイズの蔓延、テロによる難民、政情不安と戦争、貧困と犯罪、国家の崩壊と飢餓、部族同士の虐殺等々、破綻した国のありとあらゆる悲劇に満ちている。アフリカでまともな国は南アフリカも含めてひとつもない。
なぜアフリカの国々がこんなにも崩壊したか?
この本はその問題と原因を鋭く伝えている。

筆者はこのアフリカのルポを読んでいて、この悲劇の延長上に中国があると感じている。これからの10年から20年後の中国の姿が現在のアフリカ諸国の延長上にある。
そのくらいアフリカで現在起きている悲劇が10~20年後の中国にも起こり得る可能性を孕んでいるのである。あまりにも背景がそっくりで共通した要素だらけで驚くしかない。

最近中国における経済記事で、ジニ係数という指標がよく使われる。(以下引用)


ジニ係数
ジニ係数(ジニけいすう、Gini coefficient, Gini’s coefficient)とは、主に社会における所得分配の不平等さを測る指標。ローレンツ曲線をもとに、1936年、イタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された。 所得分配の不平等さ以外にも、富の偏在性やエネルギー消費における不平等さなどに応用される。

概要
係数の範囲は0から1で、係数の値が0に近いほど格差が少ない状態で、1に近いほど格差が大きい状態であることを意味する。ちなみに、0のときには完全な 「平等」つまり皆同じ所得を得ている状態を示す。社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4である。ジニ係数の厳密な定義は、「ローレンツ曲線」の項目を参照の 事。
(以上、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より一部引用)


中国の国家統計局の発表では、2012年のジニ係数は、0.474(それでも危険なくらい高い)としているが、2012/12/11付けのニュースでは、中国の西南経済大学(四川省)の調査によると、中国の最終ジニ係数は0.61である(ちなみに、日本は0.329、 ドイツが0.295、アメリカが0.378)政府発表の0.474でも警戒ラインなのに、0.6を突破すると社会不安につながる危険ラインとなる。

現在、中国は民衆の暴動やデモを鎮圧するための公安費(公共安全費)に2012年の予算で7,018億元(約9兆1,000億円)を投入している。
ちなみに、陸軍160万、海軍26万、空軍38万の国防費は、6,703億元(約8兆7,000億円)で、国内の治安を保つための経費が国防費を上回っているのである。
外国と戦うより国内を平和にすることの方に金がかかるというのが現在の中国の実態である。
中国の年間の暴動やデモは、約20万件で1日あたり548件起きている。思えば、元を滅した紅巾の乱も、明を滅した李自成の乱も、清を滅した太平天国の乱も民衆や農民(職業軍人ではない)による反乱であった。 現在の中国はその民衆のマグマのような憤懣を国防費よりカネをかけて押さえ込んでいる。

貧富の格差が個人の努力では埋められないほど拡大し、汚職や腐敗で社会が崩壊し、無秩序になったアフリカ諸国の人々は「ルポ資源大国アフリカ」の中でこのように語っている。(以下引用)


ケープタウン民間研究機関「安全保障研究所」ピーターガストロウ
「南アはアフリカでも最も経済水準の高い国ですが、南アよりはるかに貧しい他の国々の方が治安がよい。要するに、誰もが一様に貧しい社会では犯罪、特に組織犯罪は成立しにくい。巨大な所得格差が生じたとき、貧しい側は犯罪を 通じて「富」にアクセスしようとする。
アフリカで突出した経済力を持つ南アは、アフリカ各地の犯罪者にとって「富」にアクセスできる場所であり、同時に世界的な犯罪の中継拠点にも使える国なのです。
(以上、「ルポ資源大国アフリカ-暴力が結ぶ貧困と繁栄」より一部引用)


同じくジニー係数が0.6を超えるナイジェリアでは、国営石油会社のNNPC社の50代部長の月給が180万ナイラ(約149万4,000円)であるのに対し、エロイケ村でパーム油を生産する20代男性の1ヶ月の手取りは1万ナイラ(約8,300円)、ポートハート コートのバーの女性店員(18歳)は月給4,000ナイラ(約3,300円)である。そのNNPC社(ナイジェリア国営石油会社)から天文学的高給をもらっている部長はこう語っている。(以下引用)


「人間だから給与が高いことは嬉しいことだが、率直に言ってもらいすぎだと思います。現金で支給される給与のほかに、幹部用の社宅から車が用意されてい る。こんなに所得格差のある社会では貧しい人はまじめに働くこと自体が嫌になってしまいます。ナイジェリアの社会に腐敗と不公正を広げたきっかけは間違い なく石油です。私は今、国営企業(ナイジェリア国営石油会社)の幹部という立場にいますが、仕事を離れて一人のナイジェリア人として考えるとき、 石油はこの国を不幸にしたと思います」。
(以上、「ルポ資源大国アフリカ-暴力が結ぶ貧困と繁栄」より一部引用)


昨年米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は2012年10月25日、中国の温家宝首相の一族の資産が少なくとも約27億ドル(約2,200億円)に上る と報じた。これには中国のみならず世界に激震が走った。なぜならば温家宝は比較的クリーンな政治家と思われていたからである。 彼は貧しい教員家庭に生まれ苦学して首相にまで出世した苦労人というイメージで宣伝されており、その苦労人が巨額の蓄財をしてその資産を米国に移していた のである(それですっぱ抜かれました)。 胡錦濤国家主席でさえ正式には4,620ドル(約42万円)の年収しかもらっていないのに、その部下がその50万倍の財産を保有するなどありえないことで ある。

ウォール・ストリート・ジャーナル2013年 2月 25日 (月)の日本版記事で以下のようなものがある。

http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-335616.html?mg=inert-wsj

これによれば、現在(ここ一年以内で)資産1,000万人民元(1億3,000万円)以上を保有する中国の富裕層は推定96万人おり、1億元以上は6万人 いる。資産1,000万人民元の富裕層なかで46%が移住を検討していると答え、14%が既に移住したか、申請をしたと答えた。また資産1億元以上の人の 傾向はもっと顕著で、それぞれ55%、21%だった。 単純に計算すると、

資産1000万人民元で移住する人数=96万×0.46=44万
資産1億元で移住する人数=6万×0.55=3.3万
海外に流出する富裕層の資産=44万×1,000万元+3.3万×1億元=440,000,000+330,000,000=約100兆円

となるが、実際には500兆円の資産が流出すると言われている(その資産の経由地がマカオのカジノです)。
これだけの資産が今後数年の間に流出したら国家が破産してもおかしくはない。
この資産の中にはまっとうに稼いだ財産もあるとおもうが、税金をまともに支払っていない不正蓄財も相当内在すると見てよい。

以下のレポートはアフリカの世界大戦とよばれたコンゴ動乱の背景を説明している。

http://www.glocol.osaka-u.ac.jp/research/090417sasshi.pdf

アフリカの世界大戦とよばれたコンゴ動乱のあと2006年民主化のための大統領選挙に向けてコンゴ内務省移民局長(入国管理局長)は語った。(以下引用)


「我が国の最大の問題は貧しいことではありません。この国には正義が存在しない。正義が実現される見通しがなければ誰も税金を払いませんし、みんな自分のことだけを考え、社会のために働こうとしません。この大統領選は、コンゴに正義を取り戻すきっかけになって欲しいと思います」
(以上、「ルポ資源大国アフリカ-暴力が結ぶ貧困と繁栄」より一部引用)


“正義が実現される見通しがなければ誰も税金を払いませんし、みんな自分のことだけを考え、社会のために働こうとしません。”
このコメントは賄賂が社会正義を著しくくじくことを指摘している。
国の発展のためには正義や公平や平等が必要なことをこれらの国々の人々のレポートは伝えている。

賄賂をもらって何が悪いんだ?
人より儲けて何が悪いんだ?
収入の低い奴は怠けているだけだ。同情の余地はない。
自分さえよければいいんだ。何か文句あるか?
人の真似して何が悪い。儲けた奴の勝ちだ。

こういう倫理観の荒廃の向こうにはアフリカ諸国が現在体験している国の荒廃が待っているのである。

筆者は無政府状態になってもまだ心の荒廃が治らないスーダンやコンゴやソマリアの惨状を見るにつけ、これはアジアの明日の姿になるかもしれないと戦慄したのである。

貧困は再生産される。再生産された貧困は再び再生産され、永遠に循環する。
そこに絶対的な格差が生まれる。その絶対的な貧困が「富」にアクセスする手段が犯罪である。

石井光太著の「絶対貧困-世界リアル貧困学講義」では、アジアやインドやアフリカにおける絶対的貧困を解説している。乞食からストリートチルドレンから売春婦まで社会格差が世代を経て作り出した貧困を徹底的に分析している。

貧困家庭に生まれる—–>学校に行かない——->文字が読めない——->職業に就けない——–>貧困家庭を作る

貧困の再生産は延々として続き、まともな方法では貧困のカーストを上ることは出来ない。
今、地球には67億人の人々が住んでいるが、この半数の30億人が一日2ドル以下で暮らしているといわれている。
東京で最低賃金で働く人の一日の収入は約74ドルである(東京都の最低賃金は850円×8時間=6,800円/92円=74ドル)。
これらの人々がまっとうな労働で1日74ドルの生活を手に入れる方法はない。

日本でも母子家庭の貧困の再生産は統計的にも明らかになってきている(筆者コラム「第117回 新・日本之下層社会」参照)。

人間は生まれながらにして平等ではない。
人間は生まれながらにして身もフタもないくらい不平等である。

無政府状態もしくは貧困と不平等と暴力にさいなまれる現在のアフリカの姿は明日の中国の姿である。
このまま腐敗や汚職が進んで貧富の差がもっと拡大すれば必ず統治不能の状態になるであろう。
どんなに公安費を投入しても人々の不満は抑えられなくなるであろう。

アフリカ、特に、スーダン、コンゴ、ソマリア、ナイジェリアのような無政府状態になれば、現在の南アフリカのように日本に犯罪が輸出されることになる。
なぜならば、回復不能の貧富の差が社会に発生すると“犯罪”という手段でしか「富」にアクセスできなくなるからである。日本の治安も間違いなく悪化するであろう。

先日、政争で粛清された薄熙来の部下の王立軍が重慶で逮捕したマフィアの数は6,000人である。
中国はすでにそういう国になりつつある。世界で一番長い国境線を持ち、隣の国々(インド、フィリピン、ベトナム、ロシア、日本、等々)ほぼ全てと対立問題や領土問題を引き起こしている(まるでコンゴです)。

現在の中国が危機に陥ったときに助ける友人は目下のところいない(イラン?パキスタン?)。今まさに中国の歴史的な“カントリーリスク”が顕在化したと言えるのではないだろうか?反日はその小さな小さなきっかけに過ぎない。

安全も正義も倫理も公平も平等もない孤立する覇権国家中国。
これこそ、明日の我々のカントリーリスクである。