【第156回】クラウドとは何か(後編) -クラウドによって何が変わるか

cloud6

(3)クラウドによって何が変わるか OS/DB/ミドルウェアのオープンソース化
現在データベースの主流はOracleである。OSの主流はWindowsである。
この磐石の寡占ビジネスがクラウドの登場によって今まさに崩壊しようとしている。
クラウドで採用されるミドルウェア(APサーバーやDB等のインフラソフト)は基本的に無料(フリー)のオープンソースが採用される。商用DBの雄Oracleの代わりにGoogleが採用しているMySQLやPostgreSQLが採用され、WebLogicやWebSphereに代表されるAPサーバーには、ApacheやGrassFishのフリーソフトが採用される。また、OSはセキュリテイが弱いWindowsサーバーではなく、より堅牢なLinuxサーバーが採用される。しかもそれはライブラリが有料のRed Hatではなく、SUSE LinuxやCentOSのようなオープンソースが主流を占めるであろう。 IBMのSmartCloudサービスのようなPaaS(Platform as a Service)では、ミドルウェアもサービスの中に組み込まれているのでこの限りではないが、ニフティクラウドやAmazonのEC2のようなIaaS(Infrastructure as a Service)ではOSくらいしか提供しないので選択肢はどうしても非商用のオープンソフトにならざるを得ない。そうなると、いままでIT業界で覇権を握っていたOracleやWebLogicのような代表的商用ミドルウェアは使用されなくなるのである。 ここに大きな世代交代が始まるのである。昨日までの覇者がこれからは敗者となる壮絶な世代交代が今から始まろうとしている。
この段階で最悪のIT投資は、非クラウド対応のERP(クラウドERPは現段階ではこの世に存在しませんが)+商用DB+大規模サーバーである。これは自殺行為となるかもしれない。

cloud7

(4)クラウドによって何が変わるか 水平分業からサービス統合の時代へ
クラウド以前のオンプレミスの時代には、アプリーケーションソフトの購入、ミドルウェアの購入、DBの購入、OSの購入、ハードウェアの購入をすべてメーカーやベンダー別に注文しなければならなかった。 そして、そのメーカー毎に見積書、注文書、注文請書、発注書、納品書、検収書を発行するとともに社内手続きを踏まなければならなかった。
ところがクラウドの時代になると、SaaS業者が顧客と一本の契約で完了する。例えば、ECObjects統合化部品表サービスでクラステクノロジー社と契約を結べばあとはどのベンダーとも契約する必要がない。 これが、水平分業からサービス統合の時代への変化である。
これにはもう一つ大きな変化が伴う。
オンプレミスの時代には物を売り買いしていたので(要するにパッケージを仕切値で代理店に卸してその商品を代理店がエンドユーザーに販売していた)、物が流れる商流が存在した。商流が存在するということは商圏が存在した。すなわち、同じ人事/給与システムでもすでにA社の製品を扱っている代理店はB社の製品を同時に扱うことはなかったのである。その理由は、物を売るとそれに対するマーケティングや営業部隊やカスタマイズチームやサポート部隊などのリソースが必要となる。同じような製品を2つも3つも扱うとそのリソースが無駄になって非効率になるからである。また、いろいろなものを担いでいると同業他社と不要な安売りコンペになるので商売上も得策ではない。
これがクラウドの時代になるとどう変化するか?
クラウドはいわばソリューションのサービスを売るコンビニのようなものである。そこにシャンプーを置く棚があって、以前は商圏の関係で花王のシャンプーしか置けなかったが、顧客は利用するだけなので、いろいろなシャンプーを試してみたいと考えるのである。利用するだけだから嫌なら他のシャンプーを使えばよいのである。ところが、棚には目下のところ花王しかない。となると客は他の店(他のクラウド業者)に行ってしまうのである。そこで、クラウド・コンビニは花王だけでなく、ライオンやユニリーバのシャンプーも置くようになるのである。クラウド・コンビニにしてみれば何のシャンプーを買おうがその店から買ってくれれば何の問題もないからである。
利用するだけで所有しないということは、カスタマイズしないからカスタマイズ部隊がいらない。サポートはトラブル対応のみ。選択肢を増やした方が顧客満足度は増すのである。 クラウドによるサービス統合によって、商品としてのソリューションは One Of コンテンツとなり、単なるサービスの選択肢のメニューとなる。ユーザーにとっては安価で選択肢の広いサービスが受けられるようになるのである。 そうなると、自前主義で自社製品しか扱わなかった大手ベンダーは市場から消え去ることになるかもしれないのである。
ただし、マイクロソフトのクラウドであるAzureはマイクロソフト製品(.NET環境)しか扱わないのでこの限りではない。今までどおり非互換的なバージョンアップとサポート切れとメーカー主導の価格戦略に悩まされたいなら今までどおりクラウドはマイクロソフトにすればいいだけの話である。

cloud8

(5)クラウドによって何が変わるか サービスの立ち上げは1時間
クラウド以前のオンプレミスの時代には、システムを立ち上げようと思ったら軽く1年はかかった。なぜならば、マシンの手配に1ヶ月+ソフトウェアの購入に1週間+、、、+データベースのセットアップに1週間+ミドルウェアのセットアップに1週間+ネットワークのセットアップに1週間+、、、+アプリケーションのカスタマイズに1年費やしたからだ。 グローバルSCMを3ヶ月で稼動させたいとユーザーが望んでもこのリードタイムの山は解消できない。
ところが、クラウドの環境はすべてがバーチャルなので物理的に購入するものはひとつもない。ついでに言うと、設定も仮想なのであらかじめ用意しておけば一瞬で構築可能なのである。
IBMのSmartCloudでは、マイイメージという概念があって、サーバー+APサーバー+DB+アプリケーションのセットをあらかじめ保存しておいて、それを仮想環境で一瞬にして立ち上げることが可能になった。この仕掛けは最新鋭機種のIBM PureSystemsにも応用されていて、トランザクションが増殖してサーバーのレスポンスが悪化すると自動的にサーバーを増殖させるSFのような機構が実用化されている。 固定IPアドレスでさえも設定して数秒で入手することができるようになっている。
もともとデジタルな信号はハードウェアと無関係に存在しうるのである。

cloud9

(6)クラウドによって何が変わるか ハードウェア構成自由
ニフティのクラウドでもそうだが、クラウドは利用しないと課金されないか安価で環境を保持することができる。
そうなると、フォールトトレラントでノンストップの冗長性のあるサーバー構成が安価に構築できるようになる。
例えば、グローバルSCMのためにフォールトトレラントでノンストップ統合化部品表システムを構築しようと考えたら、本番系と待機系で2台(httpサーバー+APサーバー)×2で4台のサーバーが必要になる。それぞれにOSが搭載されてDBが搭載されてミドルウェアが搭載されて、そのバージョンアップと保守料がかかる。 銀行や証券のシステムでない限りこのような無駄な構成は許されない。現実には1台のサーバーだけで構築することになるのである。
これがクラウドになると安価な費用でサーバーを構築でき、しかも地勢リスクも分散できるようなシステムが組めるようになる。
例えば、IBMのSmartCloudの場合、本番系を幕張に構築して待機系をトロントに構築してDBをミラーリングすれば、関東大震災があって日本中が停電してもコンピュータは止まらないで運用することが可能になるのである。 グローバルSCMは日本だけの問題ではない。世界中からの利用に耐えられなければならない。
この際注意しなくてはならないのが、米国にサーバーを置かないことである。米国の情報開示のしくみはコンピュータに自由に査察できるようになっているので(NSAの仕事ですかね)、米国の法律の下にあるコンピュータ・リソースは丸裸である。 ゆえに待機系は米国以外がよいと筆者はひそかに考えている。

cloud10

cloud11

cloud12

●エピローグ
いまからざっと30年前、情報リテラシーは大型汎用機の中に集約されていた。UNIVAC、IBM、ブル、NEC、日立、富士通、等々のメインフレームの中に経理システムも生産管理システムも販売システムも銀行の勘定系システムも統合化されていた。 それが1990年代のオープンの時代になってUNIXやWindowsのサーバーに分散され、1企業1台の汎用機が200台のサーバーに分散された。企業はその増殖し続けるサーバーの管理に悩まされている。
このサーバーの分散時代が今また集中の時代に向かおうとしている。
今度の集中は前回とはスケールが違う。地球規模で集中し始めている。それがクラウドである。
現在、IBM、Amazon、Google、セールスフォース、マイクロソフトの5大クラウドベンダーが世界中のコンピュータ・リソースの4割から5割を占めようとしている。このことは、世界中のコンピュータ・リソースが米国に一極集中することを意味している。
これは国防上はとてつもなく恐ろしいことであるが、利便性と価格がこの流れを加速させることは間違いない。
日本大手連合がバラバラに覇権を争ってバラバラに米国に媚びていた間にハードウェア戦争には決着がついてしまったのである。
ついでに言えば、コンピュータ・ビジネスの決着がついてしまったと言える。これが日本のサラリーマン・エンジニアの限界である。
コンピュータの覇権はもう日本にはない。ついでに言うと、アプリケーションの覇権を一瞬握ったかに見えたドイツももうすぐ覇権を失うであろう。 この大動乱の時代にわれわれは次の一手を打たなくてはならない。
アプリケーションのクラウド化である。
これさえ乗り遅れたならば日本からハードウェアの工場だけでなく、ソフトウェアの工場も消滅することになるであろう。携帯電話ガラケーの二の舞になる。
大きなパラダイムシフトが始まろうとしている。
“所有するから利用するへ”この大動乱のシナリオを征する者は誰か?
これは短期決戦になるであろう。時代の潮目がすぐそこに来ている。