【第139回】私家版カッシーノ! -How to カジノ

浅田次郎のエッセイに『カッシーノ』というのがある。これは世界中のカジノを旅するルポルタージュである。彼はロンドンのカジノのハイローラー(高額のテーブルにつくことを許された特別客)でもあるが、そのエッセイの中で、ドイツ、モナコ、イギリス、イタリア、ラスベガス、モロッコ、南アフリカ等々の世界のカジノを紹介している。

筆者は日本ではギャンブルはしない。競艇、競輪、競馬はもとより、麻雀、パチンコから宝くじの類までここ数十年全くやっていない。従って、真の意味ではギャンブラーではない。
真のギャンブラーは、なぜか「小心者」である。大金を威勢良く賭けるので腹の据わった人物かと思うと実はその真反対である。ギャンブラーはなぜか「小心者」なのである。これは釣師が短気だと言われているのとよく似ている天分である。そして真のギャンブラーは人生を喪うような危い金を一点に張って快感を得 るのである。その崩壊する一歩手前で脳内からドーパミンが出るらしい。そしてその神経が震えるようなスリルがたまらないらしい。それゆえ、ギャンブラーは 死に至るような無謀な賭けをする。従って、すべからく何らかの破滅がギャンブラーの人生には待っている。

筆者は浅田次郎と違ってハイローラーでなく、ローローラー(少額のテーブルでちまちま遊んでいる一般客のこと)なので、あまり偉そうなことは言えないのだ が、先日、某国のカジノで12時間勝負をして12戦10勝2敗で80万以上の勝ち越しをし、滞在中の食事からタクシーから一切合切の経費をカバーしても余るくらいの戦果を得たので、その体験をもとに『私家版カッシーノ ~カジノ・ロワイヤル~』を紹介してみよう。

最初に断っておくが、前述のとおり筆者は浅田次郎のような立派なギャンブラーではないので、由緒正しきヨーロッパのカジノには行ったことがない。従って、 ドレスコードがタキシードでジェームス・ボンドのように賭けるシーンは皆無である。いつもジーンズにTシャツで行けるところにしか行ったことがない。ま た、ハイローラーでもないので、コンプ(Complimentaryの略:無料の意)と呼ばれる、カジノ側がホテル代や食事や航空券を提供するサービスも 受けたことはないし、VIPルームで賭けたことももちろんない。ただの旅人素人ギャンブラーである。それゆえ、これから紹介する必勝法は誰でも実践できる 方法である。ちなみに筆者は、世界の場末カジノ専門なので格調高いヨーロッパに足を踏み入れたことはないが、ラスベガス、マカオ、ソウル、ケアンズ、オー クランド、の環太平洋のカジノには何回も通っている。特に最近では、“ソウルに行く”=“カジノに行く”になりつつあるくらい、ソウルには通っている。

■その1 基礎理論
ギャンブルに理論なんてあるか、ギャンブルは確率だろう、という方は残念ながらカジノでは勝てない。ギャンブルの主催者のことを日本語では胴元というが、 ギャンブルというものは何があっても胴元が勝つようになっているシステムなのである。その厳しい状況で勝とうと思うならば設計思想を逆転させなければなら ない。要するに、「ギャンブルは確率ではないし、偶然でもない」ということである。これを悪い言葉で言うと八百長ということになるが、そんなことを証拠も ないのに言ったら嘘つきになってしまうので、ここでは事実か事実でないかは全く別として、「勝敗は胴元が完全にコントロールできる」と考えることにしよ う。実際にそうだということではなく、あくまでも発想をそう切り替えることが第一歩である。例えば、ルーレットならディーラーが出る数を完全にコントロールできるということを前提にするということでよい。

■その2 作戦とゲーム
カジノには様々なゲームがある。どのカジノにも必ずあるのが、ルーレット、ブラックジャック、バカラ類、ポーカー類、中国サイコロ系である。それぞれのゲームで必勝作戦は異なるが、一番イメージしやすいルーレットを例にして説明してみよう。
前述したように、ディーラー(カジノ側)が自由に出目をコントロールできるとすれば、カジノ側に立って考えると「どこにヒットさせれば全員のチップをふん だくれるか」ということが推察できるであろう。恐らく現在のハイテクを駆使すればそれぞれのチップにRFIDのICチップが組みこまれていて、ルーレット の盤面に置いた途端に1から36までのカジノ側の出費がコントロールセンターのグラフに表示され、プレイヤーがベット(賭ける)する度にその数字は自動計 算されてカジノ側の儲けが最大になるように出目をコントロールできるようになっているのである。そこで、その逆をついて張るというのがまず基本的な戦略で ある。とは言ってもこれは単純ではない。可能性のあるところにいちいちベットしていたら軍資金がもたないからである。そこで、アウトサイドと呼ばれる数字 のない外側に基本的にベットするのである。アウトサイドは基本的なポジションがあり、他のプレーヤーのベットしている状況により変化するが、基本的な方法 は以下のようなものである。

 ①まず、他のプレーヤーを観察してチップを多く使う客がどういう張り方をするか
  見極める。
 ②盤面を2つにわけ、1~18、19~36の両エリアに他のプレーヤーがベットして
  いる状況を観察し、自分がカジノ側の人間ならどの目を出せば一番多く儲け
  られるかを判断する。
  この時に何点かの候補が現われるが前回の勝負または前々回の勝負の状
  況を見てカジノ側がターゲットにしている人物(要するにカモですな)がいれば、
  その人物をロストさせる目を見抜く。
 ③そうして予測した結果(この予測は重要です。カジノ側の意図を読めるかどう
  かが戦術の全てです)、仮に19~36にカジノ側が目を出すと判断したら、以下
  のようにベットする(この場合カモが大量に張っているベットが1~18に集中して
  いると仮定します)。

  1) 3rd12のダズンベット(Dozen Bet 2倍)に4枚を張る
  2) 次に19と22のストリートベット(Street Bet 11倍)に1枚ずつ計2枚を張る
  3) 次に1 to 18のハイ/ローナンバーベット(High/Low Number Bet 1倍)に
   4枚を張る

 この予測が当たった場合の配当をシミュレートしてみよう。

  1) 25~36のいずれかにヒットすれば、2倍(元手を含めて12枚)
  2) 19か22にヒットすれば、11倍(元手を含めて12枚)
  3) 予測がはずれて1~18にヒットした場合は、1倍となる(元手を含めて8枚)

 従って予測が当たった場合の収支は下記のようになる。
 
   1)の場合、残数12枚(ベット数+利益)-投資額(10枚)=+2枚
  2)の場合、残数12枚(ベット数+利益)-投資額(10枚)=+2枚

 そして予測がはずれた場合のリスクヘッジは、下記となる。

  3)の場合、残数8枚(ベット数)-投資額(10枚)=-2枚

この基本形に従ってカジノ側の意図(全てふんだくってやろう)を見抜ければ、少しずつプラスとなり、万が一よみがはずれても-2枚の損しかない。
筆者はこれにインシュアランスを加えて、5ナンバーベット(Five Number Bet 6倍)という、1、2、3、0、00同時にベットできるコーナーに1枚追加で張ることもある。
ただし、これはカモとなっている他のプレーヤーが0や00に何枚もベットしていないことが前提となる。

以上の基本形のほか、他のプレーヤーの賭け目によっては逆貼りのオプションがいくつかある。その逆貼りが収益のステップアップにつながるので、このよみは腕(カジノ側の意を読み取る知恵)次第である。

筆者はコラムベット(Column Bet 2倍)の縦一列のエリアや、Even Odd(偶数、奇数)、黒赤、はたまた、大鉄火場(他のプレーヤーがほとんど全ての数字にベットした大混戦の状況)になった時には、手薄なところ(ということはカジノ側に被害の少ない目)に直接貼ったりもする。
そうしてゆくと1時間後位にはチップは元の3倍位になっているはずである。あまり儲けると今度は自分がカジノ側のターゲットになってしまうので、ここらで河岸(かし:場所を変えるという意味)を変えて他のテーブルに移り、また同じ戦いを繰り返すのである。

■その3 ベットのタイミング
上記の作戦はその実行ポイントが重要である。出目をコンピュータ・プログラムで自動計算している場合はともかく、人間がボタンを押しているとすれば、一度判断したことを覆すのは難しいので、ルーレットがまわり始めてディーラーが「No more bet!」と言った直後に0.1秒で張るのである。特に、追加の逆貼りオプションはこの方法でないと見抜かれてしまうので、相手に判断の時間を与えてはいけない。

■その4 飲食
基本的にカジノのテーブルでの飲食はサービスなので、サンドイッチ、カクテル、ワインからタバコまでディーラーに言えば何でも持って来てくれるが、金儲け をしている最中に飲んだり食べたりしてはいけない。筆者は以前ラスベガスで夜中の2時から6時間カジノを転戦して8000ドル余り勝っていた時に、バニー ガールのお姉ちゃんが持ってきたワインを2杯飲んで集中力が切れてしまい、30分で儲けすべてが消えてしまったことがある。以来、飲食しながらギャンブル はしないことにしている。  

■その5 入場
英語も下手だし外人には弱いし、初めてのカジノはどうやって入ったらよいか分からないという人のために、入場からゲームを開始するまでのシミュレーションをしてみよう(例:ルーレットの場合)。
まず、フロアを一周してみてどのテーブルに着くかのあたりをつけなければならない。誰もいないテーブルに着いても自らカモになりに行くようなものなので、 2,3人の勝負師(インサイドにやみくもに金任せで張っている客)がいるテーブルが理想である。無謀な賭け方をしてすぐに消耗しお金を出し続けているよう なハマッた客がいると尚よい。そういうテーブルの席が空いたら、ディーラーに目配せし一勝負が終わり配当が終った頃を見計らってテーブルに札束を置く。こ れはカジノのルールで、上空に監視カメラがあるのでカメラに見えるように札をテーブルに置き、ディーラーには決して直接手渡してはならない。金額はテーブ ルの最低ベット額の40~50倍は置きたい。ディーラーが金額を確認すると「What’s your color?」と聞いてくる。これは自分の好きな色を聞いているのではなく、色別にコインを識別する仕組みになっているので、空いている色の中で何色のコ インを使うのか?という質問である。色を選ぶとディーラーからコインが運ばれてくる。時間があるからといって誰も張っていないインサイドに張ってはいけな い。目立つことは厳禁である。そのテーブルをリードする大勝負師が無闇やたらにインサイドに張った状況を見てから前述のセオリーに従って「No more bet!」とディーラーから声がかかる直前に素早くあたりをつけたコインを張るのである。これは事前にバックオフィスにポートフォリオを開示しないためで ある。それでも玉がルーレットに落ちるまでに30秒余りタイムラグがあるので、その間にディーラーが戦術を変えることもありうる。ギャンブルは常に胴元に 有利なシステムとなっているのである。
じっくり集中すること2時間位で疲れてくるのでキリのいいところでディーラーに終わりを告げ、換金のためのコインに精算してもらい、それをキャッシャーの窓口に持って行くと現金に変換してくれるのである。それが1勝負で1戦である。
筆者は2泊3日の間にこれを10~12戦位やるので最低でも10時間はテーブルに着いている勘定になる。とても酒を飲んで酔っ払っている暇はない。

■その6 カジノのゲームの種類
カジノにはルーレットの他にも面白いゲームがたくさんある。
プロのギャンブラーがよくやるのは、ブラックジャック(あるいはセブンラック)で、これは隣の客次第でディーラーの仕込が微妙に崩れるので(この表現はあ くまで印象であって事実かどうかはわかりません)、実力があれば勝てるし、比較的長く遊べるのでカジノではこれ専門の人も多い。
これは、Pair Bet(ペア・ベット)、Surrender(サレンダー)、Insurance(インシュアランス)、Even Money(イーブン・マネー)、Double Down(ダブル・ダウン)、Split(スプリット)等のテクニックを駆使してディーラーと駆け引きできれば十分に勝ち目はある。これは直接対決でもあるが、ディーラーと一対一で戦ってはならない。必ず負ける。
最近の2010年3月22付のニューヨークタイムズの記事に、ジョー・アクセルラッド(Josh Axelrad)という、コロンビア大学で哲学の学位を取得した35歳の青年がアトランタのカジノを相手に“モサド”と呼ばれるチームで乗り込んで、5年 間のうちに約700,000ドル(約7,000万円)の利益を得たというニュースが載った。これはラスベガスで1970年代後半に活躍したMITのチーム のやり方を真似したものである。多分、チームでアタックすればブラックジャックは完全にカジノに勝てるというのは実証されている。彼はこの体験をもとに、 『Repeat Until Rich:A Professional Card Counter’s Chronicle of the Blackjack Wars』という本を最近出版しているので、興味のある方はペンギン出版から出ているこの本を購入されるといいかもしれない。
次に、007のジェームズボンドが得意なバカラ。これは勝負が非常に早いのでビックリするような大金が短時間で動く。博打らしい博打でとてもハードである。筆者はタイ・ベット(Tie Bet)で稼ぐパターンが多いが、長い時間戦うととても不利である。短期勝負の種目である。
この他にカジノでスタンダードなのはポーカーである(カリビアンスタッドポーカー、スリーカード・ポーカーもあります)。これは優雅であるがなかなか勝てない。筆者はこの種目が不得意なのでほとんどやらない。従って必勝法も研究したことがない。
アジアのカジノで中国人が大挙して群がっているのがタイサイである。これは三つのサイコロを電子式の孵化器の中でころがしてその表の目に従って配当を決め るチンチロリンの発展形である。ルーレットよりも目の張り方に関連性がないので勝つためには瞬時の判断力と計算能力が必要となる(瞬間的な計算能力が無い 人には向きません。この計算能力はルーレットなどよりもっと速度の速い読みが必要です)。
中国サイコロ系の一種でマカオやシンガポールに多いのが牌九(パイガオ)である。これはルールが多少込み入っているので素人では難しい。特に広東語を話せないと不利である。
最後に、カジノで一番有名なゲームはスロット・マシンである。残念ながらスロット・マシンは筆者はやらない。頭を使う余地が全く無いからである。ただこれはジャックポットを一度でも出すと病みつきになるようである。

■その7 作法
カジノにはドレスコード以外にも作法がある。テーブルにつくと基本的に飲食は無料で、ワイン、ビール、カクテル類からサンドイッチのような軽食やタバコま で(禁煙でないカジノの場合での話ですが)何でも持って来てくれる。ラスベガスの場合はウェイトレスに必ずチップを渡さなければならない(タイガーウッズ の愛人の何人かにラスベガスのウェイトレスがいましたが、多分これはチップを100ドルくらい渡してホテルの部屋番号かなんかを教えてナンパしたのではな いかと筆者は邪推しております)。
また、ルーレットで大勝した時も(特にワンポイントで勝った時)ディーラーにチップ(コイン)を渡すのもマナーである。ただし、これによってその後の勝敗 に何ら寄与するものではないということは断っておく。勝ち目はディーラーではなく、天井の監視カメラを使っているバックオフィスのオペレーターがグラフを見ながらコントロールしている可能性があるからである。

■その8 負け方
以上のような知識を机上でシミュレーションして、負けてもいい上限の金額を用意してエキサイトしないことがよい負け方である。これが守れないと一財産を一 晩で水の泡にしてしまうことになるからである。ゆえにギャンブルを楽しむためには負け方を十分に考えていなくてはならない。ルール(マイ・ルール)を守って沈着冷静にふるまわなくてはならない。

それでは、Good Luck!