【第112回】続・米作りの経済学

ガソリン税や毒餃子事件に翻弄されてほとんど報道されていないが、今、日本には深刻な食糧危機が訪れようとしている。
しかもその食材は日本にしか存在せず(亜種は世界中で生産されているが)、日本産だけが特別に美味で、中国の高級スーパーに行くと、1Kgがなんと100元(約1,500円)で販売され、しかも品切れになる程の売れ行きなのである。
日本の政府は、世界中が“スシ・ブーム”に沸いていてこの食材の潜在需要が爆発的であるにもかかわらずまったく輸出する気配がない。そればかりか、ジャブジャブ補助金を垂れ流して4割もの水田を減反させ、農地が荒廃するのを奨励しているのである。まさに狂気の沙汰である。

ここまで説明すると、皆さんももうお気付きであろうが、その食材とは、“日本の米”である。ジャポニカ米である。
よく、カリフォルニア米は美味しいという評判を聞くが、それは米国の(トップレベルはNYの)スシ屋が美味しいというのと同レベルの事象で、本当に同じ土俵で論じられるレベルの食材ではない(他国のよりはマシというレベルです)。米は日本の米だけがダントツに美味しいのである。ダントツに美味しいものだか ら日本人は誰も不思議に思っていないのである。

この米が食べられなくなる危機に今まさに直面している。

農水省が米が余ってしょうがないと言っている、日本全国の米総生産量約1,340万トンのうち、余剰米はたったの30万トンしかないのである。その30万トンのために、ジャブジャブの補助金を奨励して減反を進めているのが現状である。
その程度の米なら外国のスシ屋に売りさばけば何のことはない量である。もしくは、アフリカあたりに支援物資として送れば、約500万人の飢えをしのげるの である(この数字は日本人の一年間の米の消費量の60Kgで換算しています)。世界中のスシ屋で米を消費すれば本当は米は足りなくなるのではないかと思う のである。
それと、前述の中国の100元ではないが、日本の米の本当の美味しさを知ったら、中国は巨大なマーケットに変貌するはずである。これは未来の話ではない。

筆者コラム第80回「米作りの経済学」を書いた昨年の時点で、米1俵(1俵=60Kg)の米価を14,000円と書いたが、最近JA(農協)が異様な値段を付け始めている。
今年のあきたこまち1俵の値段は10,500円である。新潟県のブランド米である新潟コシヒカリは12,300円(前年15,000円)、最高品種の魚沼産コシヒカリで20,300円(前年24,700円)でしか買取らなくなった。
農家(特に米専業農家、第二種兼業農家のように、他に収入のある職を持っている半サラ半農ではなく、本当に農業だけで生活している農家です)は、JAの一方的な方針変更で25%もの収入減を余儀なくされたわけである。これはサラリーマンで言えば、年収400万の収入が300万に下がったことを意味する。しかも、労働内容も収穫物も収穫量も全く同じにもかかわらずである。

日本の米農家は、現在大きな赤字に苦しんでいる。しかも、専業農民のほとんどが60歳以上の高齢で、この経済状態では棄農する農家が多発してもおかしくはないのである。それに追い討ちをかけるようにJAでは平成19年度産から1俵を7,000円に下げると決定している。しかも、その米は仮払い流通といって、 市場で1俵7,000円以上の値がついたら農家にキックバックするというものであるが、現実には大手小売の圧力で安売りされるのがオチであろう。1俵7,000円は数年前の半額であり、サラリーマンでいえば、年収400万が200万に半減するということを意味する。

JAはこれによって農家に加工用米を作るように奨励している。加工用米とは、牛や豚の飼料である。筆者は古い人間かもしれないが、米を牛や豚に食べさせるためだけに作るということに心理的な抵抗を激しく感じるのである。他にもやり方があるのではないか?日本の米は国防上も重要な資源ではないか?
ガソリン税や中国毒餃子よりも日本の食糧自給率が40%を切っていて、しかも、国産の米がなくなる直前であるという現実をマスコミはもっと書いてもよいのではないかと思うのである。これは明日、明後日の日本の危機である。

ちなみに、米価が7,000円である場合に年収1,000万を達成するために必要な農地は、1,000万/7,000円=1428.57俵、それに必要な農地は、1反(991.7平米)あたりの収穫量が約9俵なので、1428.57/9=158.73反(157,412.541平米=47,617坪)で、これは東京 ドーム(46,755平米)約3.4個分の広さに相当する。これでは米作りの経済学は成り立たない。年収1,000万を得るのに、東京ドーム3.4個分の水田 を一人で耕さなければならないのである。
これはいくらなんでも不可能である。
米作りで生計を立てるのは、現在の日本では不可能である。
そして、このまま行けば、日本の食糧自給率は30%を切るのではないだろうか?
中国の食品の安全性を論じる前に、日本の食糧の行く末を案ずる方が先ではないかと思うのである。

ちなみに、農水省が日本の農産物で一番輸出額の多い食品だと主張しているものが何か判るだろうか?
それは、真珠である。
それって食べ物か?バカも休み休み言え、である。このくらいの詭弁を弄するくらい日本の農政は崩壊している(ちなみに二番目に輸出額が多いのはたばこです)。

現在、日本の農産物輸出額は3,799億円で日本の農産物輸入額は7兆4,195億円である。完全な大赤字状態である。
これが現在の日本の食糧の現実である。

中国毒餃子が現在問題になっているが、中国から食料を輸入しなかったら、我々は明日から食事ができなくなるのである。そこまで来ている現実にマスコミは誰も気づいていない。
いまそこにある危機である。
食をコストダウンすると、安全性や健全性が必ず犠牲になる。

大手小売もいつまでもウォールマートの真似ばかりしていないで、生産者を守る適正な値づけをすべきではないだろうか?