【第105回】平成小作農

小作農という言葉をご存知だろうか?
今ではもう死語になった言葉である。戦後の農地改革によって日本の大地主は全て土地を放出して解体され、今ではこの言葉は歴史上の死語となっている。
小作農とは別名、小作人とも呼び、多くは地主から農地を借りて農作物をつくる農民をさす。農地の使用料(小作料)として、とれた農作物の一部、または現金を地主におさめる。戦前は日本には多くの小作人がおり、高い小作料を地主におさめて貧窮を囲っていたが、戦後のGHQ主導の農地改革によって大地主から土地が分配され、事実上はなくなった。差別用語では“水呑み百姓”とも言う。
2007年8月17日、仏BNPパリバが自らのファンドを3つ凍結したと発表したのを起点とした米国のサブプライムローンの破綻が原因で世界中の株価が暴落し、日経平均も1日で800円近くも下がったことは皆さんの記憶にも新しいことであろう(3日通算で1,500円の下落です)。
このサブプライムローンとは米国の住宅ローンの1つで、信用力の低い人を対象とした高金利型の住宅ローンのことである。これは聖書の“富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しく”を地でいったようなローンで、支払能力のない人々に返済不能なお金を貸し付けて家を買わせて、その代わりに法外な金利と 手数料を徴収するという低所得者向けローンである。米国の貧しき人々はそれゆえ、マイホームという名の田畑を大地主(資本家)から借りて金利という小作料 (しかも高い)を生涯支払い続けるサブプライムローン小作農となるわけである。大地主(ローン会社)は、小作農が金利を払えなくなったら、彼らを自己破産させて、二束三文になった住宅をまた別の小作農に高金利で貸し付けるということを繰り返して永遠に小作人から搾取する仕組みといえる。
実は日本のサラリーマンが、そもそも国や銀行の小作農であったことはあまり知られていない。
よく、家賃を支払うくらいなら買った方が得であると主張してマンションや家を買う人がいるが(特にこの傾向は女性に多いです。これを営巣(えいそう)本能といいます)、試しに実際のデータで本当に賃貸より購入が有利なのかを検証してみよう。

現在(2007年8月)東京の山手線の中の新築マンションは平米×100万円くらいが相場である。夫婦、子供2人を平均的な家族構成だとすれば、 60~70平米の広さが必要であろうから、仮に70平米で7,000万円のマンションを買ったとしよう。同じ広さで賃貸だとすると相場は約25万円。 7,000万円を全て最長の35年ローンにして金利が約3%であるとするとほぼ同額の金利になるので、35年間の支払総額は7,000万+7,000万で1億 4,000万円になる。それを35年に分割すると、1年分の支払いは約400万円、月額換算すると約33万円、これにマンションの管理料、固定資産税等がか かるので少なく見積もっても月に40万円はローンの支払いにかかる計算である。
ついでに言うとマンションの購入に関しての諸手続きの費用がばかにならない。
ざっと列挙すると以下のような費用がかかる。

 ・売買契約(売買契約書印紙税)
 ・規定によるローン契約諸費用(ローン契約書印紙税、規定による事務手数料、ローン保証料、生命保険料、
  火災保険料、抵当権登記登録免許税、司法書士報酬)
 ・決裁、登記その他の費用(所有権移転登記登録免許税、媒介手数料、引越、税金、不動産取得税)

これらの費用を合計すると、大体マンション価格の約6.6%が別途費用として計上される。7,000万円のマンションを購入したとすると約462万円の費用 が別にかかる計算になる。これも賃貸であれば全くかからない費用である(ゴルフ会員権の名義変更料と同じで所有することそのもののコストです)。
60~70平米の賃貸マンションの相場は20万から30万円くらいまでなので、どう考えても借りた方が安い。しかも、いかに法律上50年の寿命があると言われている鉄筋のマンションであっても、ローンを完済した頃、築35年も経てばボロボロである。内装のリフォームだけでも、バス、トイレ、キッチンの水周り等々で数百万はかかってしまうのである(これは筆者の実際の経験でもあります)。
せっかく35年かけてローンを払い終えても老朽化したボロマンションにかつての資産価値はない。また当人もあまり住みたいとは思わない。その上、一度こういうものを購入するとなかなか引っ越すことは難しい。隣に騒音おばさんが住んでいようが、ヤクザの事務所があろうが、キチガイがいようが、殺人事件が発生しようが、引っ越すことはできない。35年間隣人が善良でまともであることを前提としなければならないのである。これもまた至難のわざである。

そんな都心に住むからそんなに高い買い物になるんだと思う方もいると思うので、試しに筆者がかつて住んでいた埼玉北部のマンションでシミュレーションしてみよう。
都心から通勤1時間くらいのマンションの相場を平米あたり約40万円とすると、70平米では2,800万円となる(これは都心の半額以下です)。
やはり金利3%でローンを借りると、2,800万+2,800万=5,600万円の支払いとなる。月額にして約13万円である。これに管理料、固定資産税が加わ るので毎月の支払いは約16万円となる。また、上記と同じで取得コストが6.6%かかるので、約185万円の別費用も必要となる。
一見これは都心に住むよりコストが安いように感じるが、1日の通勤に往復2時間かかり、お父さんの年収が800万円だとすると時給は4,166円(月20日勤務を想定)なので、1日の通勤コストは時給に換算して1日8,332円、35年間で、8,332円×20日×12ヶ月×35年間=6,998万8,800円で、 約7,000万円のコストが余分に加算される。その上、月に1回自腹で25,000円(東京から1時間のタクシー代の相場)のタクシーで帰宅したとして、35年分のコストは25,000円×12ヶ月×35年間で1,050万円となる。遠距離通勤だけで約8,000万円のコスト増となるのである。
しかも長年の満員電車に揺られた通勤のせいで寿命も相当縮むし、通勤のために35年間で短縮された睡眠時間は2時間×20日×12ヶ月×35年 間=16,800時間(約2年分)にもなるのである。これがそのままお父さんの寿命に跳ね返るのは必定といえよう(大変ですね)。要するに寿命がこれだけで 数年短縮された訳である。

話しを戻して、埼玉県の北部にマンションを買うと試算すると、5,600万+7,000万(通勤コスト)+1,050万(タクシー代)=約1億3,600万円で、実は都心にマンションを買うのと大してコストが変らないということが判る。
社会保険庁が年金を簡易的に算出する時のサラリーマンの生涯平均年収を600万円と想定しているので、42年間勤続(65歳まで勤めます)した時の生涯年収は2億5,200万円である。生涯平均年収を650万円と想定しても2億7,300万円である。
実にこの半分が住宅ローンという名の小作料として富める者(国や銀行)に上納されるというしくみになっているのである。
その上、せっかく35年もローンを支払い続けたマンションは、死後、相続税として最大50%は国にまた上納されるという仕組みになっている(マンションは取得時の簿価なので、35年後に価値が1/10に下がっても相続税の対象は昔のピカピカの頃の時価で評価されます)。
ついでに言うと、42年間休まず働いて毎月強制的に徴収された年金は、官僚や政治家がいつのまにか流用して散財してしまってもう原資が残っていないという状態にある。まさにサラリーマンの人生は、踏んだり蹴ったりである。
こうなると、現代のサラリーマンはまさに形を変えた小作農というしかない。
このシミュレーションはマンションの例であるが、これが一戸建てになると約35年~40年で建てかえる必要が出てくる。これによってさらに数千万円のコスト増となるのである。

それでは逆に小作農にならない方法はというと、ズバリ、ローンで家を買わないということに尽きる。家賃を払うのが勿体無いという女房族の営巣本能を黙殺して、ひたすら借りるのである。実は日本は人口が減っているので永遠に住宅が不足することはない(中国や南米から大量の移民が来なければの話ですが)。わざわざ買わなくとも住むところに不自由することはないし、それによって著しい不利益をこうむることもない。それより、いつでも引っ越せていつでも住みたいと ころに住める自由さを追求したほうが精神衛生上はよいかもしれないのである。
実は、現在日本の世帯の1/3といわれている老人世帯のほとんどが1人かまたは夫婦で一戸建てに住んでいる(厚生労働省の、2000年度国民生活基礎調査 では、65歳以上の老人世帯は、1,564万7千世帯で、全世帯4,554万5千世帯の34.4%を占め、その数は年々増加しています)。
あと20数年もするとそうした住宅が余るので、地価も家賃も下がることは必定であるし、また、ここ10年の少子化で今から20~30年後の日本は確実に借り手も買い手も不在となるのである。家が足りなくなることはまずないと考えるべきである。そうなったら若い時は通勤に便利な都心に住んで、老後に地方に移り住むという選択肢も可能となるであろう。
なにも今から42年先を心配して大借金をする必要はないのである。
その上、現在の団塊の世代の子供(現在20代後半から30代)は、平成バブル不況の就職難とニューファミリー文化から醸成されたフリーター礼賛文化の影響でかなりの数(何百万人?)が定職についていない。彼らはアルバイトの低賃金労働者なので、当然相続税は払えない。従って彼らの親である団塊の世代が死ん だら、団塊の世代の大部分の不動産は国に物納されることになるであろう。
その膨大な不動産が競売にかけられてREITのような不動産ファンドによって供給されるので、20年後には日本中に安価な賃貸物件があふれることになると筆者は考えている。
ゆえに団塊の世代の10数年後を走る筆者の世代は、一生賃貸でよいのである。
住みたい家はリーズナブルな賃貸でたくさん登場するからである。
ただ論理は明快でも感情は別である。すべては女房族の営巣本能をどう押さえ込むかにかかっているといえよう。
それも最近の若い女性は専業主婦を嫌って一生職業を持つ傾向にあるので、家そのものが仕事場である専業主婦とちがって家に固執することもあまりなくなるかもしれないのである。
そうなると日本から住宅ローンという制度が消える日がくるかもしれない。
平成サラリーマン小作農は解放されるわけである。
この現象を戦後の農地開放に対応して、平成住宅ローン開放運動と勝手に呼ぶことにしよう。