【第104回】人間脳と恐竜脳

これから説明する話は人間の脳に関する一考察であるが、筆者は養老猛教授のような大脳生理学の専門家ではないので科学的な根拠はほとんどない。従って、学説と異なるというクレームは勘弁願いたい。あくまでも個人的仮説に基づいた私見である(ヨタ話ですな)。
筆者の友人で母親と長年不和の男がいる。彼の母親は極度のヒステリーである。ヒステリーというのは、現代の精神医学では以下のように体系化されているが、 筆者の使う“ヒステリー”は、いわゆる女性が感情的になったときにキーキー取り乱す方面の古典的な症状のヒステリーである。


■ヒステリー(hysteria, ?στερ?α)
1.かつての精神医学において、転換症状と解離症状を主とする精神疾患群を指していた語。

2.転じて、一般の人がヒステリーと言う場合、単に短気であることや、興奮して感情のコントロールができなくなる様子のことをさすことが多い。本来の意味とは無関係に使用される場合が多く、しばしば蔑視のニュアンスを含む。ヒスともいう(例:ヒスを起こす)。

以下は精神医学用語として使われてきたヒステリーという語についての記述である。後述するように、現代の精神医学ではヒステリーの語は使われなくなっている。
ヒステリーの語は、女性に特有の疾患との誤解から子宮に原因があると誤って信じられていたため、古典ギリシア語で「子宮」を意味する?στερικ??から名づけられた。19世紀後半にシャルコーの催眠術による治療を経て、フロイトにより精神分析的研究が行われ無意識への抑圧などの考察がなされた。その後 しばらくヒステリーの治療は精神分析を主体としたものが主流であった。しかし1990年代より、精神疾患を原因で分類するのではなく症状で分類する方法が主体になり、1994年に発表された精神障害の診断と統計の手引き第四版(DSM-IV)では、この言葉は消失し、解離性障害と身体表現性障害に分類された。ICD10では、解離性[転換性]障害に分類される。この経緯については神経症と類似である。
このような経緯に加えて、「ヒステリー」が一般用語として雑多な意味に用いられていることから、現在の精神医学では基本的には「ヒステリー」という用語は使用しない。
かつてヒステリーに分類されていた精神疾患についての詳しい情報は、解離性障害、身体表現性障害の項を参照されたい。
解離性障害(かいりせいしょうがい)とは、心的外傷への自己防衛として、自己同一性を失う神経症の一種。自分が誰か理解不能であったり、複数の自己を持ったりする。
症状の発生と、ストレッサーの間に時期的関連があることが診断の必要条件である。
(以上、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より引用)



実は彼は(友人は)最近まで母親がヒステリーだということが判らなかったらしい(マヌケな話だが)。なぜならば、彼の母親は激怒しても全く表情を変えず、 ドスの効いた低音で自分の主張を一見理論的に手を変え品を変え延々と話しまくるからである。その間、数時間(最低2時間)は人の話しは全く聞かないし聞えなくなる。そのことを知らない小学、中学、高校時代の彼は、母親が発する矛盾だらけ、事実と異なるクレーム、理不尽な批判に1つ1つ論理的に回答してゆくのだが、全く埒があかず、いつも大喧嘩になってしまうということだった。
このヒステリーとの付き合いの過程で、彼は一種のディベートを学んだと主張しているが、相手は感情的になってコントロール不能となった状態なので、言葉は単なる“弾丸”でしかなく全く意味をもたず、感情のボルテージを表す音楽のようなものなのである。彼の母親は、いわば、カッとなると理性が飛んでしまうタイプの人間であったようだ。
これはなぜ起こるのかというと、脳のコントロールが人間脳から恐竜脳に移ってしまったからである。

では、人間脳と恐竜脳とは何か?
以下はスタンフォード大のロバート・サポルスキーから取材したジュラシック・コードという特番から解説しているものである。
約10億年前、ミジンコやアメーバのような単細胞生物(皆さんの周囲にも今でもたくさんいると思いますが)が進化して、多細胞生物が誕生した。その後、多細胞生物が進化して、筋足動物が誕生し、無髄神経という神経が発達した。この無髄神経はホルモンの浸透によってジワジワと信号を伝達するアナログ神経回路 で、ホルモンの化学反応なので伝達速度は秒速1メートルである。実は脳幹と呼ばれる人間の本能をつかさどる部分はこの仕組みでできている。それゆえ、睡眠欲や情熱や食欲や性欲や怒りや闘争本能はじわじわと伝わり、じわじわと静まるという性質をもつことになるのである。
筋足動物が誕生してから更に6億年後、4億5,000年前に初めて脊椎動物(魚類)が出現した。この脊椎動物は有髄神経をもち、無髄神経の120倍も速い信 号伝達を実現したのである(秒速120メートルになります)。この信号伝達がシナプスの信号伝達の基になっているのである。記憶や計算や思考はこのしくみ を基にして、大脳において信号を伝達しているのである。
脊椎動物はその後も魚から両生類や爬虫類に進化し、約2億年前から1億3,500万年前にジュラ紀と呼ばれる恐竜時代を出現させたのである。このジュラ紀の恐竜が持っていた脳の最終形が小脳をはじめとする脳幹とよばれる恐竜脳(爬虫類脳ともいいます)なのである。恐竜脳しか持たないティラノザウルスとかステ ゴザウルスのような恐竜は、このホルモンの伝達信号によってコントロールされ、主に子孫を残して敵と戦い、生き延びるために食欲と性欲と睡眠欲と闘争本能 を主なエンジンとして自分だけが生き残るためだけの脳を形成したのである。これが恐竜脳というものである。
人間でよくキレやすかったりするのは前頭葉機能が弱い人に多く、脳のコントロール(心のあり場所)がすぐに恐竜脳に移動してしまって、自分が人間であるこ とを一瞬忘れてしまって恐竜と化してしまったことを指すのである。 このことを小説にデフォルメしたのが有名な英国の作家、スチーブンソンのジキル博士とハイド氏である。ジキル博士がハイドになった自分をいつも憶い出せず に泣いているという記述は、人間脳にコントロールが戻ったときに恐竜脳の自分がした行動を責めているという構図なのである。怒りはホルモンが信号を伝達するので、怒髪天に登るとすぐには怒りは収まらないのである。
その後、中世代に哺乳類が出現し、恐竜が絶滅した後に進化して、約500万年前に霊長類からホモサピエンスが進化したのである。
500万年前の初期の人類からアウストラロピテクス、ホモハビリス、ホモエレクトス、ネアンデルタールと進化する過程で脳は発達し、恐竜がもっていた脳幹の周囲に哺乳類の誕生と共に海馬をはじめとする大脳辺縁系と呼ばれる脳が発達し、記憶や好悪の感情を得ることとなった。
その後、大脳辺縁系の外側に大脳新皮質というレイヤーが発達して、脳は自分だけを守って生き抜くという目的から仲間や種族を守るという目的に進化していったのである。
ここで完成したのがホモサピエンスのCPU、人間脳である。
ここでは、思索、感情、記憶、喜怒哀楽という、現代人の“心”が働くようになったのである。脳はシナプスというたくさんの神経細胞からなる大きなネットワークの塊である。大脳辺縁系は生きていくことに必要な、呼吸や心臓などをコントロールし、逃げる、食べるなどといった本能的な「情動」をつかさどってい る。
一方、大脳新皮質は、感覚や知覚と共に、言語や文字を認識する思考機能を有している。脳の働きを簡単に解説すると、××したい、という動機や欲求を帯状回 という辺縁系によって動機づけされ(トランザクションの発生)、新皮質がどうすればよいかを考え(演算:思考)、過去のデータベースに海馬を使ってアクセ スし(DB検索)、辺縁系の扁桃体が可否の価値判断を行い、その判断のもとに大脳新皮質が実行モジュールを設計し、大脳辺縁系から肉体に命令して実行に移 すということを連続的に行うのである。
人間の脳は今のコンピュータに極めて似たメカニズムを持っており、我々の感覚からすると非常に判りやすいしくみなのである。
ところが、その人間脳コンピュータが止まってしまう(ダウンする)ことが時々起こる。システムトラブル(異変)である。
それはOSのコントロールが人間脳から恐竜脳に移ることによって生じる。
皆さんの周囲でこういう状態になる人を見たことはないだろうか?

・あの人は怒ると手がつけられない
・酔うと別人になる
・ムラムラすると(リビドーで)何をするか判らない(強姦魔特有の症状ですな)
・突然キレて別人のようになる
・お腹がすくと(女性の場合、明日のご飯が食べられないと判ると)恐怖感にかられて我を失うような行動(万引きとか)をとる
・話を聞くモードと聞かないモードがあって、聞かないモードの時は何を話しても通じない
・突然、ヒステリーをおこして暴れる
・パニックになると何をしでかすか判らない
・パニックになると倫理観が消失するような行動をとる

これらはいずれも人間脳コンピュータが停止して、制御が恐竜脳に移ってしまったために起きる現象である。大脳新皮質が未完成な子供の時代にはよくある現象 であるが、人間は成長するに従って心のコントロールを恐竜脳に奪われることなく理性を保ち、人間脳コンピュータを安定稼動させるのである。それが時々本能 の強い欲求にひきずられて人間としての理性を失う瞬間がある。あるときは怒り(それも短気、激情的な)によって、またある時は性欲によって、またある時は 空腹によって(このレベルの欲求で理性が飛んでしまう人は人格的にはかなり問題ですが)、人間脳にあった心のコントロールを恐竜脳に移してしまって理性を 失い、鬼叉か悪魔かハイドに変身してしまうのである。
ちなみに脳のOSのコントロールが常に恐竜脳にある人間をサイコパスと呼ぶのである。
ヒステリーを起こした人は、肉体や言葉で暴力をふるい続け、その間、相手や第三者が何を言おうと聞く耳を持たない。なぜなら言語中枢をつかさどる大脳新皮 質の言語野にコントロールがないので言葉を理解できないからである。その伝でいうと、一見静かなヒステリーを起こす人も“聞かないモード”という特殊な状 態になるようである。
一切の言葉は強烈な怒りのもとに力を失うのである。
“話せば判る”とのたもうた、犬養毅の言葉はその点では意味をなさない。暴力に走った人間は人間の形をしたティラノザウルスなのである。このことを鬼と呼び、悪魔と呼び、ハイドと呼んだのである。
心のコントロールが恐竜脳に支配されるとホルモンの伝達により、じわじわとしか改善しないので、原因事象がなくなってもすぐには解決しない。
よく、“怒りをしずめる”というが、怒りはホルモンの信号で伝達されるので、記憶のようにパッと反応できないのである。鈍い動きで怒りは減衰するのである。
脳のOSのコントロールがどの辺りにあるかを、仏教ではもう少し詳しく“六道”として解説していると筆者はかんがえている。 六道とは仏教用語で、すべての衆生(しゆじよう)が生死や輪廻転生を繰り返す六つの世界のことである。迷いのない浄土に対してまだ迷いのある世界。この世 に生を受けた迷いのある生命は死後、生前の罪により地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道をめぐるとされているのである。前の三つを三悪道、あと の三つを三善道という。
もう少し詳しく解説すると六道とは以下のような世界である。

 


■六道の概要
・天道
天道には天人が住まう。天人は人間よりも優れた存在とされ、寿命は非常に長く、また苦しみも人間に比べてほとんどないとされる。また、空を飛ぶことができ 享楽のうちに生涯を過ごすといわれる。しかしながら煩悩から解き放たれては居ない。天人が死を迎えるときは五つの変化が現れる。これを五衰と称し、体が垢 に塗れて悪臭を放ち、脇から汗が出て自分の居場所を好まなくなり、頭の上の花が萎む。
・人間道
人間道は文字通り人間が住む世界である。四苦八苦に悩まされる苦しみの大きい世界であるが、苦しみが続くばかりではなく楽しみもあるとされる。また、仏になりうるという救いもある。
・修羅道
修羅道は修羅の住まう世界で、修羅は終始戦い、争うとされる。苦しみや怒りが絶えないが地獄のような場所ではなく、苦しみは自らに帰結するところが大きい世界である。
・畜生道
畜生道は牛馬などの世界である。殆ど本能ばかりで生きており、人間に使役され殆どなされるがままという点は自らの力で仏の教えを得ることの出来ない状態であり、救いの少ない世界とされる。
・餓鬼道
餓鬼道は餓鬼の世界である。餓鬼は腹が膨れた姿の鬼で、食べ物を口に入れようとすると灰となってしまい餓えと渇きに悩まされる。前世において他人を慮らなかったために落とされた例がある。旧暦7月15日の施餓鬼会はこの餓鬼を救うために行われる。
・地獄道
地獄道は生前の罪を償わせるための世界である。

(以上、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より引用)



これを恐竜脳と人間脳の領域でとらえると、地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道はまさに恐竜脳の担当する領域で、人間道・天道は人間脳の担当する領域であることがよくわかる。
人間は死んだ段階で主たるコントロール領域の魂を授かって、再び転生すると、昔の人(特にインドの人)は考えたのかもしれない。それゆえ、脳のコントロールがどこにあるか、どのレベルにあるかは、輪廻転生をも左右する重大な問題なのである(ほんとかね?)
筆者は時々ヒステリー起こした人に出くわすと“この人はティラノザウルスになってしまった”と心の中でつぶやく。
皆さんの中にもよくティラノサウルスになってしまうひとを見かけませんか?
そういう人を見かけたら人間に戻るまで待ちましょう。ホルモンの信号伝達速度は秒速1メートルなのですぐには人間に戻りません。しばらく放っておくしかありません。
また、ヒステリーになった人は、女性でも男性でも、言葉を“怒りをぶつける弾丸”としてしか使っていないので、言った内容に妥当性や論理性や正当性はまっ たくありません。その内容にいちいち反論や説明をしても本人は恐竜状態なので覚えていません。恐竜君たちにとっては言葉は単なる咆哮でしかないのです。
みなさんのまわりにも一匹くらいはこういう恐竜君がいるかもしれませんよ。
そのときはくれぐれもまともに取り合って反応してはいけません。
恐竜対人間の戦いでは間違いなく、論理を無視して暴力に訴える恐竜の方が強いからです。
泣く子とヒステリーには勝てないのです。