【第82回】コストDownと売上Up -情報システムにおける負の因果律(後編)


□□キャッシュが廻らず、監督者がラインに
そして、96年になるとコスト削減を目的に各工場で「監督者(工長)のライン入り」が始まる。工長は本来、動作改善や現場改善、さらにはワーカーの技能向上などを推進するための管理監督者だ。
分かりやすくラグビーに例えるなら、指令塔役のスクラムハーフがフォワードに入り一緒にスクラムを押すという構図である。ハーフが担うゲームプランの作成、攻撃や守備、球出しについてのフォワードへの指示はできなくなり、ひたすら手薄になったフォワードの仕事に専念した。
現在、××工場長を務めている○○氏は、このときの事情について話す。
「この頃、△△社はキャッシュが廻らなくなっていたのです。一度決まった設備投資計画が突如、凍結してしまうこともあった。こうした中、監督者のライン入りはやらざるを得なかったのです」

-中略-

販売現場とは違い「△△社の工場現場の従業員は、それまで計画の未達といった経験がなかったのです。まじめな人が多いだけに、問題意識を持ちながら無理をしてでもやってしまう。ただし、現場力は大きく歪みました」と○○氏。

□□シェア25%の根拠がない
では、歪んだ現場で、従業員たちは当時をどう思っていたのか。
「コスト(削減)をやりすぎて、現場は疲弊していました」
「会社が持っている実力以上の高い目標を掲げたため、コスト削減のしわ寄せが私たちの現場に来たと思う。本当に辛い状況でしたが、できないと言うのが嫌だった。また、辛さだけではなく、自分達の意見を訴える手段がなかった」
「本来持っている現場力が、十分に発揮できなかったのが一番辛かった」
「他の工場はどうしているのか、情報が入ってこなかった。このため、自分たちでやるしかなかった。でも、工長がラインに入るのはやはりおかしな形だ」
「いきなりシェアを25%にすると言い出したが、なぜ25%なのか、その根拠がなく数字だけが一人歩きしていたと思う。結局、シェアが落ちても誰も責任を 取らないばかりか、今度は収益を重視せよということで、監督者のライン入りが始まった。上が考えていることと、自分たちの現場とが一致していなかったと思 う」
「俺たちの能力は、昔も今も変わらない。しかもみんな真面目なんだ。ヤレッて言われれば何だってやる・・・・・」
現場の従業員だけではない。当時の工場現場について、多くの幹部が否定的な見解だ。
現在、××工場長を務める○○氏は言う。
△△社の資本が入る前、つまり90年代後半、各工場は収益確保に追われていました。しかも、全社的なものづくりの方向性が明確ではなく、工場ごとにバラバ ラに取り組んでいた。つまり、コストDownに意志がなかったのです。今でも、コストを単純に下げようとすれば、派遣社員を増やせば下がりますよ。しか し、コストは下がっても、レベルは上がらない。技術の伝承もできません。方向性が明確でない上、何を目指すのかもはっきりしないのに、ただ“下げろ”と言 われても、そこに意志を感じないでしょう。現場力は落ちるだけです」
(以上、PHP研究所出版 「現場力」 永井隆 著 より引用  ※固有名詞は隠してあります)



ちなみに前述の商社では、IS部門の弱体化にERPを導入して10年してから気づき、現在、社長直下で全社の情報戦略を立案する部門を各部門のエリートを集結させて立ち上げようとしている。
この辺は、問題に全く気づいていないほかの会社のトップよりはまだましである。

かくして、番人不在、管理人不在、設計者不在となった大建築物(レガシーシステム)は老朽化して手に負えなくなって、大混乱を覚悟でERPにするか、事情を知らないSIerが一括で請け負って大赤字になるのである。最近の事故を見ると昔のように完成してから不具合が多発するというよりも、顧客自体がシステムの巨大さを認識せずに発注して、設計中にその全貌が明らかになって問題になるというケースが多いと感じる。しかも汎用機の時代に10年かけて作った仕様をわずか数ヶ月で実現するという離れ業つきである。
かくしていつの時代もSEはコンサルの蒔いたトラブルの種を負わされる形になるのである。

今度からは情報システムの予算の仕訳を”間接費”ではなく戦略実現のための“直接費”にして表に出さないといつまたコストDownコンサルの餌食になるか判らないのである。
そこで劣化したシステムの“現場力”を外注のSIerがすべて自己責任のように負わされるのである。

これを悪循環と呼ぶ。負の因果律である。