【第81回】コストDownと売上Up -情報システムにおける負の因果律(前編)

経営コンサルタントと呼ばれる人々がクライアントの企業の業績に関して相談を受けたとき、2つの方向のアドバイスをするようだ。

1つは売上をUpする施策である。
新事業を立ち上げるとか、マーケティングを練り直すとか、販売方法を変えるとか、新製品や新サービスを提案するとか、いろいろな方法があると思うが、客の会社もそんなことは昔から考えていて、外部から突然やって来たコンサルが月額1,000万もらって、2ヶ月か3ヶ月で何十年も販売している顧客先の会社の業績を2倍、3倍に上げるような提案ができたらそれはなかなかスゴイことであると思うが、現実的にはそんな魔法のような妙手はなかなか考えつかないもので ある。
もしコンサルタントがどんな会社に行ってもその会社の売上をUpさせることができたとすれば、日本中で一流のコンサルを養成し続けて数万人の集団にすれば 日本の上場企業何万社の業績を全て伸ばすことができるので、コンサルタントさえ国家で養成すれば日本のGNP、GDPは恐らく3年以内に2倍になるであろう。
そのくらい、コンサルタントという職業はスゴイことをやるのだ。
何せ、全く知らない会社に突然行って、その会社を何十年も経営、運営してきた人々が気付かない革命的な提案を2,3ヶ月で行うことができるのだから、超人技というしかないのである。
現実にはそんなコンサルティングを恒常的に行って、確実に責任の取れる結果を出せるコンサルは稀有である。もしそんな能力が本当にあるのならば、コンサルなんかやらずに実際に企業に入ってCEOとして実践した方がはるかにいいからだ(マッキンゼーの一流コンサルには実際に実業界で実力を揮って名経営者に なった人がいます。それをマッキンゼーマフィアと呼びます。IBM/ナビスコのガースナーなどはその典型です)。

そうなると、売上Upで有効な提案ができないコンサル諸氏は次の手を打つ訳である。
それはコストDownである。UpができなきゃDownがあるさ、という訳である。

コストDownだけは評論家的な視点でデータや帳簿を分析して、無駄と思われる、或いはDown可能と思われる部分をCutするだけで効果がでるので、何もクリエイティビティや独創性がなくとも(ということは、凡人の能力知力であっても)提案できる内容である。
筆者もコストDownは重要であると思うが、基本的には強い売上Upの戦略と連動してやらないと総合的に会社はよくならないと思うのである。
思えば、愛媛県の再建王と呼ばれた実業家の坪内寿夫氏もその手法は徹底したコストDownで、SSK再建ではそれが裏目に出てしまった感がある。
IT業界でもこのコンサルのコストDown提案によって深い傷跡ができていると筆者は考えている。
通常、企業のシステムを担当するIS部門(情報処理部門)のコストは、間接費や運用管理費として会社の予算に計上されていたために、コンサルのコストDown提案の格好の標的となりやすかったのである。
コンサルが“間接費にもっとメスを入れましょう”なんて、トップに言うと、何も事情を知らない経営陣はそのコストDown提案に飛びついてしまうのである。
情報処理部門のコストDownの提案にはいくつかのパターンがある。

パターン1 アウトソーシング
これは増大化しつつある情報システムコストを抑えるために大手SIerやメインフレーマーにIS部門のスタッフの出向転籍込みで、年間一定の金額でアウトソーシングする方法で、主に米国企業を中心に流行した。
ところがこの方法は、実際にはコストDownにはならない。なぜなら、月給40万で雇用していたスタッフをアウトソーシング会社に転籍させたとたんに、同じ仕事をする同じスタッフに120万支払わねばならなくなったからである。しかも会社が違うので、社員だった頃の立場での仕事はできない。あくまでも外注業者の範囲でしか仕事をしなくなるのである。本来のIS部門の戦略立案や企画機能は当然なくなってしまうのである。

パターン2 子会社化
汎用機時代のIS部門は、社内から“カネ喰い虫”呼ばわりされていた時代があって、Excel等のPCソフトツールの登場と共に、“君等も間接スタッフ部 門を脱却して、直接外のお客さんのサービスをしてお金を稼ぐように”というミッションのもとに情報システム部門の子会社独立が相次いだのであった。
当時は、PG80~100万、SE100万~150万の時代で、それだけの値段で外から仕事を貰えば大変儲かるという皮算用があったのだが、下流PG工程のオフショア化やスキルの問題、等々(お客さんの立場で必要なITスキルと商売で必要となるITスキルは雲泥の差です)があって思うように仕事をとれず、 結局親会社頼みになってしまうのである。
結局コストDownにはなっていなくて、給与体系が上がっただけになった。

パターン3 単純リストラ
これはコンピュータの運用管理に必要な人間だけを残して、後は全てリストラしてしまうパターンである。筆者の知っている最大の例では、百数十人をわずか数名にリストラしてしまった例がある。
こうなると、その会社の未来を支える現場ニーズのシステム化や将来計画など企画できるはずもない。新しい事業は全て人力で行い、現行システムはすでに陳腐化して現在の業務を支えられなくなっているにもかかわらず予算も人もつかず死に体になってしまうのである。コストがかかるということの背景には、それなりの必然性があってのことなので、間接部門≒不要と考えてコストDownしてはならないと思うのは筆者だけであろうか?

これらのコストDownによって企業活動の根幹を支える情報システムに企画立案できる人材が消失してしまって、後にはメンテ不能になった過去の巨大システムが、刷新できずに残っているという事態になったのである。
確かにIS部門は今日明日の直接のアクティビティに関与しないので、今リストラしてもすぐには影響が出ないが、無責任なコンサルが去って2,3年してから、その負の面が大きく顕在化してくるのである。
IS部門の要員は生産管理の要員と同じで、育てるのにとても時間がかかるのである。
これは知識だけ習得すればよいというものではなく、現場での実践や経験も重要なので1年や2年ではIS部門の人材は育てられないのである。それゆえ、そういう人材がいなくなると補充することはまず不可能となるのである。

これはある商社で実際にあった話であるが、その商社は自社の全てのシステムを何百億円もかけてERPに刷新したのである。
当時のコンサルは、“これで御社は情報システム部門が不要になりました”と、吹聴したので当時の幹部はこの言葉をまともに受けて、社内に百数十人いたIS 部門のスタッフを全員子会社に出向させてしまったのである。曰く、“外でもっと金を稼いで来い”。当初、ERPはバージョンUpさえきちんとすれば最新の システムにバージョンUpされるはずであったが(実はバージョンUpしたくらいで時代の変化に追随することはできないと思いますが、、、。)、その商社の システムはERPそのままでは業務に合わないので、独自にカスタマイズして、ほとんど原型をとどめないものになっていたのである(その事実は当時の経営陣には知らされませんでした。なぜならERP導入にあまりに法外なお金がかかりすぎたからです)。子会社に出向したIS部門はその後どうなったかというと、 本社にいたときにできていた会社の戦略立案や企画がほとんどできなくなってしまって弱体化したのである。
それは親会社のお客様と、そこから注文をもらう業者という構図の中で、いままで社内にいたときにはできていた、嫌われても正論を吐いたり、リスクがあっても新しい提案をしたりということができなくなったからである。皆、サラリーマンなのである。
IS部門を子会社として分離したケースも同様に弱体化する。
製造業でコストDownのために中国や台湾の全く別の会社にアウトソーシングすると、長い間の品質を保てなくなるのと同じ現象で、内部で同じ釜の飯を食べていたときには同じ社員として言えたことが、子会社と親会社の関係になったとたんに言えなくなってしまうのである。

これはコストDownの深い闇である。“現場力”は確実に落ちるのである。

コストはDownしたが、企画力もDownし、人材の質もDownするのである。これは企業の見えざる成人病である。徐々にその会社を蝕む要因となるのである。
一時的なコストDownのために百年の計を失う所業となるのである。
本質的な仕事に対するコストDownは企業の成人病を(それが間接部門であっても)招き、長い間にわたって企業を蝕む。この現象を永井隆氏が「現場力」という本の中で、ある自動車会社の例を出してこう記述している。

次回に続く