【第67回】世界の極悪人 -世界で一番人を殺した人物は誰か?

第62回、63回の本コラム「天罰のない国」で、毛沢東が平時において(戦争をしていない状態で)生涯に殺した人数をユン・チアンが試算して、ざっと7,000万人であると書いた。
日本でも井伊直弼の安政の大獄によって何十万人もの人間が命を落とすことになった。
そこで、世界の歴史をざっと見渡して、最も人を殺す原因を作った人物は誰か?と考えてみた。

スターリン2,500万人 ヒトラー4,000万人、少々小粒だが乃木希典6万人とかいろいろな人物が登場するが、この人物だけは悲惨すぎて何人殺したか(間接的も含む)、どういう事件、戦争、虐殺(ジェノサイド)を行ったか正確に統計を取ることは不可能に近い。従って、死んだ人の数が億の単位か兆の単位かもわからない。
その人物は、人類の過去3,000年間の争い、テロ、戦争、殺戮の全ての原因を作り、今もなお、世界の宗教戦争の全ての引き金となっている。この3,000年の間に亡くなった人の数は、地球上で発生した戦争の大部分を負担するものなので、正確に数えるには何年もの研究を要するかもしれないのである。

では、その極悪人とは誰か?

その男の名は、ネブカドネザル2世(在位BC605年~BC562年)である。
バビロン捕囚を強行した人物である。彼のこの暴挙のために、その後、二千数百年にわたる人類の殺戮と闘争の歴史が止まらなくなったのである(実はホロコーストの原因でもあります)。
現在の世界の戦争の原因となっているのが宗教間対立である。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教同士の対立である。仏教国とこれら一神教軍団が戦うことはほとんどない。
実は、この仲の悪い三大宗教の共通点は多い。もともと同じ所から出発していると言ってもよいだろう。これらは人類の宗教史上では珍しい一神教集団である。
正確にいうと唯一神教と呼ばれ、彼らだけが正しく、彼らの神以外を否定する集団でもある。もともと、日本もエジプトもローマもギリシャもインドも、神様がたくさん存在する多神教である。八百万(やおよろず)の神々を祭ってきたのである。
一神教のよくないところは、その排他性と偏狭さにある。エホバが世界で唯一の神であるとすると、日本やインドにいる八百万の神は“間違い”か“悪”ということになって否定の対象となるのである。
一神教はその唯我独尊の排他性の故、その宗派以外のあらゆる人々と争う性質を持っている。それが今日の世界の戦争のほとんどと言っていいくらいの原因になっているのである。

その人類でも例を見ない最初の一神教、それは、ユダヤ教である。神の名はヤハウェ(YHWH)。
もともと、ネブカドネザル2世がユダヤ人に対して強行した、バビロン捕囚から発生した宗教である。
バビロン捕囚とは何かというと、以下のようなユダヤ民族の悲劇であった。

 


●バビロン捕囚
バビロン捕囚(Babylonian captivity)は、新バビロニア王国のネブカドネザル2世王により、ユダ王国のユダヤ人たちがバビロンを初めとしたバビロニア地方へ捕虜として連行され移住させられたこと。
紀元前597年、ネブカドネザル王はエルサレム市街に入城し、住民のうちもっとも有力な若い者をユダヤ人の王エホヤキムとともに殺害し、約3000人(エレミヤ書によると3023人)の有力者を捕虜にしてバビロンに拉致した。
エホヤキムの息子のエホヤキンが王国をついだが、ネブカドネザル王は謀反を恐れ、エホヤキンや王族をはじめとしてエルサレム市内の若者や職人たちのすべてをバビロンに連行させた。その数は10832人に達したという。
エホヤキン王の叔父ゼデキヤが王位を継承したが、紀元前586年エルサレムは破壊され、ゼデキヤ王以下ユダヤ人たちはバビロンへ連行された。
新バビロニアがアケメネス朝ペルシアに打倒された紀元前537年に、ペルシア王キュロスの命令によって、ユダヤ人たちは解放され、故国に戻る許可を得た。捕囚の地から最初にエルサレムに帰還したものは42462人という。
(以上、Wikipediaより引用)



この事件以来、1948年にイスラエルが建国されるまで、ユダヤ人は自らの国を持つことが出来ず世界中に離散したのである。
ユダヤ人は世界中に散った同じ民族の団結を守るため、エホバ神殿の神をヤハウェとして民族統一の王のような絶対神に祭り上げ、旧約聖書やタルムードのようなドキュメントを記して民族の精神的団結を促したのである。

特異ともいえる厳しい戒律がその生活を直接規定し、世界中いつの時代にあってもユダヤ人の生活は統一され、伝承され続けてきたのである。

そのユダヤ教の一派である、ナザレ派から分離したのがキリスト教で、神の名はイエス・キリスト。これも形を変えた一神教として発達した。教理は予定説。
その後7世紀にマホメット(アラビア語でムハンマド)が提唱したのがイスラム教で、神の名前はアッラー。啓典はコーランで、その中には旧約聖書も含まれ、 マホメット以前の預言者にはアダム、ノア、アブラハム、モーゼ、イエス等々のユダヤ教、キリスト教の大スターが含まれている。要するに、ユダヤ教とキリス ト教とイスラム教は同じ流れを組む宗教である(親戚と言っていいと思います)。

人類がこの2,000年の間に起こした戦争、テロ、迫害、殺人、虐殺を振り返ってみると、これらは“自分だけが正しい”という集団のぶつかり合いであった。
これが仏教のような多神教だと、相手の神も自分の神も共存できるような寛容さが生まれて、決して相手を否定して争うようなことはしないのである。
これを書いている現在でも中東のイラクでイスラムのスンニー派が親戚のシーア派を自爆テロで殺害しているかもしれない。
日本で臨済宗と曹洞宗が殺し合いを繰り返したという話はここ1,500年の間、聞いたことがない。浄土宗と浄土真宗が戦ったという話もない。仏教は基本的に怒りや報復を禁じているので、恩讐の輪廻はない。従って報復に報復を繰り返す争いもない。

この人類の争いの根本を作る暴力をふるった男(バビロンの井伊直弼ですな)こそ、新バビロニアの王である、ネブカドネザル2世なのである。
彼が後に殺害した人数は、人類の戦争の歴史そのものなので、優秀な歴史家でも被害にあった人々の人数を数えることは不可能であろう。
その意味では、彼は歴史始まって以来の大テロリストと言うことができる。こんなに人々を不幸に陥れた人物はいないと筆者は考えている。ホロコーストだって遠因はネブカドネザル2世にある。
ちなみに、彼の治めた新バビロニアは、現在のバクダッド南方90Kmのユーフラテス川沿いにあり、旧約聖書創世紀ではバベルと表記され、世界七不思議のバ ベルの塔や空中庭園があった国である。その子孫は2,500年経った今もなお、同じ場所で殺し合いを繰り返しているわけである。

歴史は繰り返すのだ。
誰がこの負の輪廻を止めるのか?

おそらくユダヤ教とキリスト教とイスラム教を多神教化して融合するような宗教改革が必要なのかもしれない。
ちなみにツァラトゥストラもかくは語っていない。

西洋人の論理の限界がそこにある。