【第50回】グルメと未来在庫

四谷に筆者が8年前から通っているすし屋がある。
カウンターが十数席、テーブル+お座敷の造りで満員になると20人以上が入れるので決して小さい店ではない。職人も何人かいて結構、繁盛している。
そのすし屋が突然、「行ってはいけない有名店、行かなくてはいけない無名店」というグルメ本で、“行かなくてはいけない無名店”に紹介されたものだから、常連で構成されていたそのすし屋に、本を見て来る人が非常に増えた。

店が繁盛することには筆者は何の異論もないのだが、10年も営業して東京の真中にあって20数人入れて、しかも閑古鳥が鳴いているわけではないすし屋が(有名人もいろいろ来ていました)、なぜ“無名店”であるか?
筆者はその著者の有名無名の根拠が理解できなかった。
実はそのすし屋はインターネットで長らく検索ができなかった。親方にITリテラシーが全く無かったからだ。
それゆえ、雑誌に載ることもほとんどない。それが“無名”ということの根拠であるとすれば、グルメライターというのは雑誌やインターネットで検索した情報をもとに店を紹介しているということがよくわかる。

何せ開店してから約10年間“無名”だそうだからだ(会社で何人かの人に聞いてみたところ、インターネットにない = 無名だそうです。皆さん、間違っていませんか?)

お寿司を評論するのであれば、春夏秋冬通わなければならない。単純に言っても1年かかるのである。1年前にそういう取材が入っているという話は全くない(筆者は常連なので店も客も熟知した関係者であります)。
本当にグルメ本というのは金儲けライターのいい加減な産物(主観のみ)であることがよくわかる。
1度や2度通っただけで一体何がわかるのかと言いたい。

グルメ本の流行の背景にあるのは人々の情報への渇望である。
この現象は2つの側面で非常に面白い。
1つには“ケイコとマナブ”現象である。
実はケイコさんは存在するが、マナブ君は存在しない。一般的に女性は何か新しいことを始めようとするときには学校に通ったり、先生に習ったりするが、男性はあまりそういうことをせずに独学である。特別な資格を取得するとき以外は男性は学校には通わない。全く無いとは言わないが、マナブ君よりケイコさんの方が圧倒的に多い。カルチャースクールやお茶やお花の習い事、英会話スクール、ダンス教室、等々の主役も大抵は女性である。

立原正秋ではないが、女性は“生き暮れる”と学びに出るらしい。
要するに、女性は人から教わるのが好きなのである。
それゆえ、女性は何でも教えてくれるメディアや、博識な師匠に依存するのである。
Hanakoなどの女性誌に必ずグルメ特集が出るのもそういう教わりたい気持ちの背景があるからではないかと筆者は勝手に思っている。

もう1つの側面は、より豊かな生活への渇望である。
もし世の中に、グルメ特集やグルメ本がなかったらどうなるか?(実は筆者は自分の足と舌で見つけているので必要ありませんが)
例えば、青山界隈ですし屋は30数軒存在する。仮に34軒と想定しよう。
1軒で飲んで食べると安くて1万円台前半、高いと2万円台、アベレージで1万7千円と仮定する。
そこに少なくとも春夏秋冬と通うので、全ての青山のすし屋をグルメ判定する費用と時間は下記のように計算される。

<青山のすし屋をグルメ判定するリソースの計算>
グルメ評論時間=4回(春夏秋冬)×3H×34軒=408時間=2.72人月=約3人月
必要経費=4回×17000円×34軒=231万2千円

 

要するに、賢いOLは定価340円のHanakoを購入することによって、3ヶ月と231万の時間とお金の節約を果たしていることになるのである(ホントかね?)
青山のすし屋だけでこれだけ膨大な金額になるのだから、これを全料理別に東京全てで行ったら、天文学的な費用と時間を蕩尽することになるのは必定である。 巨万の富と死ぬほどヒマがあればそれも可能であろうが一般の人が少ない小遣いをやりくりしてこういう無謀な挑戦をすることは無意味である。
だからグルメ情報が人々から求められるのかもしれない。

このように、“情報”は21世紀の日本においてモノや時間を統率するコンパスになるのである。
グルメ情報によって人々は最小の投資で付加価値の高い食事を実現できるのである。
豊かな生活を最小のリスクと投資で実現すると言い換えてもいいかもしれない。
人々が情報を無意識のうちにどうコントロールしてムダな投資やムダな時間を節約しているか生産管理的側面から説明してみよう。

ここにAさんというオジさんがいる。いま財布にお金はない。
彼は家賃20万のマンションに住んでいる。
月々の生活費は家族4人で約30万(1日1万)、月末には車のローン10万もある。
Aさんの給料日は毎月25日、手取りの月給は60万円で、家賃の支払日は28日、車のローン支払日は30日である。

もし、Aさんの頭のデータベースで未来の在庫情報を時間軸で管理していなかったらどうなるであろうか?
シミュレーションしてみよう。

まず、Aさんは未来在庫(未来に自分が使うお金の情報)をデータベースで管理していないので、月初めにその月で使用する全ての支払い金を銀行から下ろす(今お金を持っていないので1ヶ月で必要なお金を全部用意するのです)。
60万を自分の財布に入れて1ヶ月暮らすのである。それを毎日生活費で1万づつ出して、25日に家賃20万、30日に車のローン10万をまた振り込む(多分、普通はこうしませんね)。

これが未来在庫を管理しているお父さんであれば、25日に60万の入金があるので、月初に下ろす金額は30万(半分の在庫ですね)で済むわけである。
それによって1日~28日までの30万円分の金利を儲ける(得する)のである。
こんなことは普通の人は日常生活で当たり前にやってるよ!と皆さんは思うにちがいない。

従来の生産管理ではこうした在庫を時間軸で連続的にデータベースで管理するということをやらない代わりに、MRP(資材所要量計算)というバッチ(一括計算)で工場全体の発注や在庫のコントロールをまとめて計算している。
擬似的には同じ結果がでるように一見見える。だがどこがよくなかったのか説明してみよう。

仮にAさんの家計を団地全体で(100世帯分)MRPの月次バッチで計算サービスしてくれた結果を運用すればそれぞれのリードタイムによるオーダー(この 場合は出金オーダーと振込み指示オーダーですかね)が出るので未来在庫を管理していなくても大丈夫だという方もいるかもしれない。

仮に家賃のリードタイムは28日、車ローンのリードタイムが30日、入金の予定(入庫の発注オーダー)が25日とする。
また一回の出金額(ロット)は10万円単位とする。手帳にはこう記録される。

<在庫推移表>
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日(タイムバケット) 1 2・・10・・・20・・24 25・・28・・30
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支出額(総所要量) 1 1・・・・・・ 1・・・・・・・21・・11
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実際入金額(確定受入量)              60
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手持現金(手持在庫)   0 9・・ 0・・・ 0・・ 6 66・・42・・30
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出金指示金(正味所要量)10    10   10
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出金指示オーダー:1日に10万出金せよ。
         10日に10万出金せよ。
         20日に10万出金せよ。

月の初めにMRP(資材所要量計算)を実施すると一見未来在庫を管理しなくても計画は完璧のように見える。
しかし実は計画が100%理論どおりに推移しないとこの計算は破綻する。
例えば、10日にAさんが銀座のクラブに行って5万円使い、支出額(総所要量)が5万増えたと仮定しよう。
MRPでは翌月に再計算しないと計算の変動はわからないし、団地全員の計算なのでAさんだけ特別に計算するのは難しいのである(理論的にはネットチェンジ という方法がありますが実質的には運用不可能です)。要するに変動に弱いのである(それで在庫を多めに手当てしたりしますが)。

そういうときに下記のような未来在庫を時間軸で管理していれば需給バランスの変動はすぐに補正されるのである。


<未来在庫>
———————————————————————-
1日2 3・・・・・・10・・・・・・・・282930
———————————————————————-
9 8 7・・・・・・ 9・・・・・・・・424130
———————————————————————-
      ||需給の変動はリアルタイムでデータ発生時に補正される。
      ↓↓  
————————————————————————————————————-
1日2 3・・10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
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9 8 7・・ 4 3 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 5 4 3 2 1 60 59 58 37 36 25
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Aさんに対する緊急出金指示オーダー: 15日に10万出金せよ。

これは一見、当たり前すぎて何が最新なの?と不思議に思うかもしれない。
しかし日本の生産管理システムは、在庫を時間軸で連続的に管理するデータベースを構築してこなかったのである。
日本の工場は誰もが口々に“在庫を減らせ!”と言ってきた。ムリ、ムダを無くせ、と言ってきた。在庫は悪だ!と叫んでいた。
ところが実際はデータベースに現物(ありもの)の数しか管理していなくて、この未来の情報を管理していない。

これはなぜであろうか?

その第一の理由は、元々コンピュータの性能やメモリの容量やハードディスクの容量に大きな制約があったために、過去から現在及び未来までの在庫の情報(数 千万件あります×365日以上です)を管理することなど全くもってコスト的にもリソース的にも不可能であったためである。

第二の理由は、元々生産管理システムは現場の人にインタビューして作ったシステムがパッケージ化されたものなので、現場の写像として作られていて、現場に今ない情報、即ち、過去、未来の情報を駆使するという考え方がなかったのである。 だからムダが多かった。そして、そのムダを誰も検証できないし、予測できないムダなのであった。情報の管理はそれゆえ、“戦略”として重要なのである。

21世紀は“情報”が価値を持つ時代である。
情報が人々の生活のバリューを決定付ける要因となる。アルビン・トフラーの第三の波の予言は真理なのである。

この情報を時間と空間(要するに時空を超えて)管理するソリューションが、グローバル統合化部品表をエンジンとしたECObjects、エンジニアリング・チェーン・マネジメントなのである(あまり製品の宣伝をしないので、たまには書いてみました)。
これは日本発世界へのイノベーションであります。
だてに特許を取りまくってはいません。
そこんとこヨロシク。