【第49回】相続税と国の借金のミステリー

日経新聞の12月13日号の一面特集に「人口減と生きる」という特集があって、日本の公的債務が774兆円であると書いてあり、それは3分毎に2億円ずつ増加していると報じていた。

国の1年分の予算が70数兆円であるので、これは会社でいうと、売上10年分の債務超過であるといえよう。
新聞ではこの巨額の財政赤字に対して、「年金だけではない。消費税率2ケタ、財政赤字を含めた国民負担率50%という未来はかなりの確率でやってくる。その頃の若者達は立ちくらみのするような重荷に耐えられるだろうか」と社会不安を煽っている。

実は筆者は、大新聞が本気でこんなことを信じていて書いているのだろうかと疑問に思っている。安愚な国民を騙しているか、本当に記者が無知なのかは判らないが、774兆円の国の借金は自動的に解消するように国のシステムは既に設計されているのである。
こう書くと、「あんた何を言ってるんだい」と皆さんは思うであろう。
システムエンジニアは“事実(ファクト)”を気分や雰囲気で処理しない。全て論理的に考察するので、一般の人々と見解は全く違うのである。それを考えるヒントが同じ記事の中に堂々と載っている。引用してみよう。

「第一生命経済研究所の試算では、1,400兆円を超す個人金融資産のうち、54%は60歳以上が保有する。今年の経済白書によると、日本人の貯蓄から借金を引いた純金融資産残高は60歳代より70歳代の方が多い」

前掲の第43号のメルマガ「平均寿命と仕事」で書いたように、日本人の平均寿命は82歳である。従って、日本の個人金融資産の60%以上が20年以内に相 続税の対象となる(ちなみに、同じ記事に富裕層の老夫婦が月20万の年金をそのまま貯金しているという記述がありますが、高齢者の個人資産は一部では退職 金や年金により増え続けています)。

財務省のホームページを見ると、面白いページがある。それは相続税である。

相続税は、昭和62年から現在の間に何と5回も改正(改正は正しく改めるですから、改悪と言い換えた方がいいかもしれませんね)されている事実をご存知だろうか?なぜこんなにも頻繁に改正される必要があるのだろうか?商法のように、村上ファンドの村上氏のようなルールの裏側をかいくぐって、暗躍するような事件が頻発しているわけでもない分野が商法より頻繁に改正されていたのである。これは日経新聞にも明示的に取り上げられていない。
主な改正点は、14段階(昭和62年以前)あった課税適用範囲を13段階→9段階→6段階と簡素化していることである。
また、20億円超で70%であった最高税率が3億円超で50%と下げたように説明しているが、財産の偏在がどの正規分布にあたるかは公開していない。

ちなみに、税率50%(現在の最高税率)にかかる課税対象金額がどのように推移していったかを調べると、その設計思想が浮き上がってくるのである。
税率50%の課税対象相続額は、1億円(昭和62年以前)→1億5千万円(昭和63年)→2億7千万円(平成4年)→4億円(平成6年:20億円で60%、20億円超で70%だが該当者はほとんどいない)→3億円(平成15年:全資産対象)となっている。

皆さんは相続税対象が1億円なんてとても特殊な金持ちなので、うちには全く関係ないと思われるかもしれない。だが、バブル期だった現在40歳代の我々の世代は、5千万円~6千万円台マンションを買っているのである。それに退職金や貯金で1千万円。配偶者のどちらかが先に亡くなるので、死亡時の保険金が5千万円。当人の死亡保険金も5千万円だとすると、それだけで1億7千万円の個人資産となる(最近、保険会社の保険金の不払いを政府が厳しく行政処分した ニュースがありましたが、皆さん憶えていますか?)
既に資産価値のないマンションと自分では使えない死亡保険金だけで誰もが1億~2億の資産を形成してしまうのである。3億というハードルがそれほど高いものではないということがわかるであろう。
仮に、個人金融資産がこのまま増加していって20年後に2千兆円くらいになったと仮定して、その1/3でも税金をかけられれば670兆円である。現在の1400兆円の50%に課税すれば700兆円である。
この巨額の国庫収入に関しては大新聞は何も書いていない。企業の税収よりもはるかに多い可能性があるのにである。

しかも最近は劣化して、物納される不動産を生前に現金化して納付してもらうように贈与税を一部改正して生前贈与を促進する相続時精算課税という制度が制定された。
これは65歳以上の親から20歳以上の子への生前贈与を認める制度であるが、ポイントは贈与財産を贈与時の時価で評価するという点である(即ち、家やマンションのように劣化する資産をある時点でとめるということです)。
筆者はマルサスのような学者ではないので、個人資産と人口の正規分布と今後の推移を幅広くシミュレーションしたわけではない。これらの調査結果が具体的にどういう数字(国庫収入)を生むのかは判らないが、少なくとも数百兆のビジネスであることは間違いないと考えている。

日本の借金は上記のようなスキームでかなり改善されるはずなので若者はそんなに不安になる必要はないと筆者は考える。

それよりも借金を理由にヨーロッパのように20%近い消費税になることを心配している。
現にドイツでは消費税が高いためにあらゆるビジネスを会社を通してやらなくなっているのである。要するに、エアコンを取り付けたり、クリーニングや車の修理等のいろいろなビジネスを企業に頼むと税金が高いので、どの街にも何でも屋さんのようなおじさんがいて、その人に個人的にやってもらうという、アンダーグラウンドな経済社会が発達しているのである。そうなると、SEやプログラマーも皆、個人営業をするようになって会社には属さないようになるかもしれない。宅急便なんかもクロネコや佐川に頼むと20%取られるので近所のおじさんに頼むというような社会に産業構造が変化する可能性がある。
現在ドイツはヨーロッパ有数の失業国であるが(外務省調査では2005年10月中旬時点で失業率11%)、この失業者の中には活性化しない企業社会と、個人でアンダーグラウンドにビジネスを展開する人々が内在しているのではないかと筆者は密かに思っている(これは推測です)。

昔から日本の諸制度は、無知蒙昧な国民にわからないように官僚が裏で仕掛けを作ってきた(共済年金とか特別会計とかペイオフ解禁とか)。
これから国に入る巨大な相続税がいったいどこに使われていくのか、われわれは注意して監視する必要がある。
下手をすると特別会計の制度を作って官僚の予算に化ける可能性もある。
赤ずきんちゃん、気をつけて!である。