【第45回】Y氏の愛した数式 -ビジネスモデルの数理

この表題は小川洋子の珠玉の名作、恋愛小説の白眉「博士の愛した数式」をパロッたものである。この物語は交通事故で80分しか記憶を保持できなくなった老数学教授「博士」と派遣家政婦の「私」と彼女の10歳になる息子の「ルート」の美しい物語である(この「博士」は大脳生理学的には事故で海馬が損傷したと思われます。この海馬の謎についてはのちに本コラム「人間脳と恐竜脳」で珍説を発表します。こうご期待)。
この「博士」は物語の中で数式を駆使して心を表現して見せるのであるが、この数学の本質は”モデリング”にある。
ある複雑な事象を抽象化してシンプルに表現する行為を”モデリング”と呼ぶ。モデリングはシステム構築上でも日常生活でもとても重要な思考法で、数式によるモデリングはその典型的応用例と言える。いくつかの練習問題で解説してみよう。まずは簡単な例から。

問1.
次の変数xの値を述べよ
(衿をザックリ抜いた浴衣)+(ルイ・ヴィトン×シャネル×エルメス)=x

正解 x=夏の浴衣祭りのキャバクラ嬢

20051206_2_公式1

同様の公式に
(ビンボー)×(ヒマ)= パチンコ中毒 とか
(巻き髪)+(ブランドバック)+(名古屋)+(Canギャルメーク)= 名古屋嬢
(名古屋嬢自体を知らないお父さんにはこの公式が理解できませんね) とか
L=R=M&A (L=Livedoor R=Rakuten )
という公式がある。
次は営業における集合論である。

問2.
ダメ営業=(自分>会社>お客様)/お金
という式が成り立つ時、次の式の答えを述べよ。


20051206_2_公式2

正解 y=φ(ファイ)

解説:
上の式の”ダメ営業”は、自分のことをまず一番先に考え、その次に会社のことを考え、その次に顧客のことを考えるという業務上のプライオリティを持っている。この営業数値は限りなくゼロに近く、お金(給与)でそれを割ると、その値はさらにゼロに近くなる。そのダメ営業が見込み顧客をいくつ持っても営業成績 はφ(空集合)であるという理論である。

問3.
次の微分方程式における微分係数zの値を求めよ

lim(見積原価-実際原価)=z
できないSE→できるSE

正解 z=利益(利益はマイナスからプラスの自然数で最大値は通常、実際原価の30%となる)

20051206_2_公式3

解説:
(できないSE)から(できるSE)に変数の値が変化すると、利益はマイナスからプラスに転じる。この場合の限界利益は実際原価の30~40%で、それ以 上の利益になるとお客様に嘘を言って吹っかけた見積りか、もしくは安全係数を掛け過ぎて過剰な見積りを出してお客様に迷惑をかけたということになる。
この公式は積分法では以下のように表現される。


20051206_2_公式4

解説:
即ち、構造化設計をきちんとやって設計した業務アプリケーションを実現するために、オブジェクト指向設計を駆使して作成した高生産性、高保守性を実現した クラスライブラリを使用して、(基本設計)から(プログラム開発)でプロジェクトを積分すると、利益はマイナスからプラスに転じる。そこに(SEのスキ ル)マネジメントスキルとテクニカルスキルとポリティカルスキルと(勇気)を足して両者がマイナスの値でなければ利益が出る。だが、(SEのスキル)と (勇気)の変数がマイナスであると、全体の値(利益)はマイナスになるという公式である。 また、設計法にも公式5と6があるので紹介しよう。

  20051206_公式5公式6


ビジネスモデルにおける定理

数年前に生産管理学会で早稲田大学の寺本教授がビジネスモデルに関する数式を発表した。非常に面白いのでここで紹介してみたい(以下の解説は筆者のオリジナルです)。

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ここにあるHとはハードウェアビジネスのことである。Sとはソフトウェアのことである。SVとはサービスのことで、NWはネットワークである。
第1世代はハードウェアで儲けるビジネスモデルである。1960年~70年代の米国のガリバー&BUNCHの時代のコンピュータ市場のビジネスモデルは ハードウェアが儲けの主体であった。SEは高額なハード(大型汎用機)にもれなくついてくる付録であり、ソフトウェアは売り物ではなかった。
ちなみに、ガリバー&BUNCHとは当時の米国メインフレーマーの勢力地図を揶揄したものである。


 ガリバー=IBM
 B=Burroughs バロース
 U=UNIVAC ユニバック
 N=NCR
 C=CDC コントロール・データ
 H=Honeywell ハネウェル


の略で、BUNCH=束という意味で、要するにガリバーには他社がBUNCH(束)になってもかなわないというブラックジョークである。
第二世代1970年~80年代になると、ハードウェアと同じ比重でソフトウェアがビジネスのコアとしてクローズアップされてくる。ちょうどCSKのような ソフトウェア会社が台頭した時代である。この頃からSEサービスはハードにもれなくついてくるサービスではなく、有料化された立派なビジネスとして発展し てくるのである。
90年代に入るとマイクロソフトのPC文化やオープンが進展してきて、コンピュータとソフトウェアが世界中の個人に普及し、新たにライセンスや保守料というビジネスのレベニューが収益源として台頭してくることになるのである。これが第3世代の公式である。

実はジャック・ウェルチがGEで10年かけて行ったビジネスモデルの進化がこの第2世代(H+S)から第3世代(SV(H+S))への転換だったのである。
彼はそのために世界シェアの1位と2位以外のビジネスから撤退し(規模の追求ができないので)、コアビジネスに集中して事業を最大化し、それと平行して全 社にシックスシグマを導入して品質を向上し、幹部教育を徹底させてマネジメントレベルを最大化し、集中してトップノッチに成長したコアビジネス群からサー ビスという収益を得ることに成功しGEを復活させたのである。

逆にIBMは、ジョン・エイカーズの時代に潰れそうになって、ガースナーの時代になってからせっかく第3世代まで進化していたIBMのビジネスモデルの一 部を逆に第1世代に戻した。DB2、Websphereのようなミドルウェアの強化、Rational、Tivoli、Lotusの買収によるファーム ウェア的アプリケーションの充実である。
これらのミドルウェアはほとんどソフトウェアの形をしたハードウェアとしてインフラ的性質を持つプロダクトで、セールススタイルはハードウェアのセールス モデルと一緒である。この流れは現行のパルミサーノの時代にもっと顕著になっていて、現在ではIBMはアプリケーションをISV(Independent Software Vendors)ベンダーから調達して自前ではやらないという方針に継承されている。

HP(ヒューレット・パッカード)のカーリ・フィオリーナが大抜擢の上にHPのCEOに就任して創業家の猛反対を押し切ってコンパックと合併したのもこのビジネスモデルの進化と深い関係にある。そもそもコンパックの公式は以下のようになっている。

コンパック=コンパック(DEC(タンデム))
ということは、
コンパック=H(PC)+H(ミニコン)+S(DECのソリューション)+H(タンデムのノンストップ汎用機)
という要素に分解される。

それまでHPにはHP wayといって、優れたハードウェアを自己革新を続けながら作り続ける天才的なビジネスモデルがあった。にもかかわらず、そのHP wayを捨ててまでコンパックを合併した理由は、ビジネスモデルの変革に設計思想があった。
フィオリーナはウェルチのように(ウェルチはGEの生え抜きプロパー社員でした。従って、社内の人事に明るかったのです)10年もかけずに、一気に第1世代から第3世代にビジネスモデルを進化させて業績を倍増しようと試みたのである。それでコンパックとの合併を創業家のヒューレット家とパッカード家の反対を押し切ってまで進めたのである。
結果は残念ながらうまくいかなかった。

第4世代のビジネスモデルは、言わば代理店モデルのようなネットワークビジネスで、1つの会社で作っていたビジネスを重積分して、ネットワークを使って等比級数的に伸ばすビジネスモデルである。

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第5世代のビジネスモデルは、恐らくIT業界ではLinuxのマーケットやインターネットの世界がこのモデルに相当すると筆者は考えている。すなわち、 P(営利団体:会社、企業)とNP(非営利団体:NPO、個人、その他)が一緒になって1つのLinuxビジネスモデルを発展させ、それが世界規模のネットワークになるという訳である。

ざっとモデリングと数式の相関関係を述べてみたが、モデリングとは複雑な事象をびっくりするような単純な事象に抽象化するのが目的で、システム開発の世界においては要求分析をするSEの思考法なのである。
全て数式に落とし込む必要はないが、昔流行ったOR(Operation Research)等もこうしたモデリングの一手法だったのである。
要求分析や業務分析をどうやったらよいか、昨今議論が沸騰していますが、要はこのようなモデリングの思考こそそれらを解決する剣であると筆者は思っている。
数式はこうしたモデリングをシミュレーションする上でまたとないツールなのである。

みなさんもこれを機会に面白い数式を考えて飲み屋で自慢しましょう。