【第27回】或小倉昌男伝

この題名は松本清張の「或小倉日記伝」をパロッたものだが、筆者は先ごろ大往生されたヤマト運輸の中興の祖 小倉昌男氏をとても尊敬している。
ある若手経営者の懇談会に出席していた時、「一番尊敬する経営者は誰ですか?」と突然質問されたことがある。本多宗一郎とか松下幸之助だとか歴史に残る名経営者の名前が頭をかすめたが、とっさに思いついたのが「大原孫三郎と井深大と小倉昌男です」というコメントであった。
なぜ盛田昭夫でなく井深大なのか、なぜ渋沢栄一ではなく大原孫三郎なのか実は自分でも分からなかったが、後でよく考えてみると、この3人はある共通点を持っていることに気が付いた。その共通点とは3人ともビジネスで儲けたお金を福祉につぎ込んだという点である。それも単なる寄付ではなく、自ら汗をかいて福祉事業を指揮したという点が似ているのである。

大原孫三郎は倉敷紡績の社長で、エル・グレコで有名な大原美術館を創設した人物として有名であるが、実は日本初の孤児院の創設者、石井十次を自分の家業が傾く程支援したパトロンでもあった。石井の孤児院は全国から身寄りのない子供が集まり、最盛期には1,200人もいたと記録に残っている。
余談であるが、石井を影で支えた娘の友子は孫三郎の親友であり、フランスで大原美術館のコレクションを買い付けた洋画家の児島虎次郎と結婚している(城山三郎著「わしの眼は十年先が見える-大原孫三郎の生涯」)より。

井深大はご存知のようにソニーの創業者であるが、彼は早々にビジネスの世界を引退し、晩年はEDA(幼児開発センター: Early Development Activity Center)を創設して幼児教育に残りの人生を捧げている。
この人もビジネスで成功した財を福祉に還元して、自らその運営の指揮をとったのであった。

先月逝去された小倉昌男は、有名なヤマト便の中興の祖として官と戦いながら宅配便というインフラを日本に普及させた人であるが、晩年はビジネスの世界から完全に引退してヤマト福祉財団を設立して、障害者の自立のために戦った(小倉昌男の福祉革命)。
彼の課題は身障者の自立であった。
1991年ヤマト運輸の会長から相談役に退いた彼はヤマト福祉財団を設立した。
目的は月給1万円であった身障者の賃金を10倍にし、かつ、経済的にも社会的にも自立の道を作ることである。
そのために彼はスワンベーカリーというパン屋のチェーンを組織して、美味しいパンを毎日焼いて消費者に喜んでもらうことを通じて身障者の自立を支援したのであった。
スワンベーカリーの「スワン」は白鳥のことである。これはスワンベーカリーを立ち上げる際に、生地から店舗経営ノウハウから工程に至るまで全面的にバックアップしたアンデルセングループ中核のタカキベーカリーに因んでアンデルセンの童話からとっている。

人間の地位はヘリコプターに似ているかもしれないと時々思う。
海抜ゼロレベルはまだ上昇していない状態。この状態の人は「自分」のことしか考えられない。自分のためになることしかしない。自分だけを大切にする。
次のレベルの人は1m位上昇した人。この状態のレベルの人は自分と自分の家族のことしか考えられない(面倒見れない。部下もお客様も二の次、三の次なので、こういう人は周囲からは人望ありません)。
ヘリコプターの高度が上がれば上がるほど、より多くの人々の幸せに寄与することができるのである。事業とはそういう観点で判断されなければならないと思う。
その点でいうと、利ザヤをトリッキーに掠め取る金融ビジネスが社会的に有益なアクティビティなのか、甚だ疑問に思うことがある。合法的な泥棒みたいなものではないかと思うのである(バイトならいいですけど生業は??です)。

米国やフランスや中国の社会の成功者はお金を儲けた人だが、筆者はどれだけ多くの人々を支えたか、面倒をみたか、幸福にしたかという観点から心のカーストを高めて上昇することが人生の本当の目的なのではないかと思う。お金は墓までは持っていけないので、必要経費分あれば十分なのである。
時々、中国やアラブあたりに出現する並外れた贅沢をする大金持ちは一代では育たないし、また、心の回路がかなり壊れていないとできない行動なのである。
見栄っ張り、派手好きも劣等感という十代で払拭しなくてはならないマイナスの病を大人になっても処理しきれず持っていってしまったがための結果なのである(お金は後になる程たんまりかかりますが)。

戦後の日本社会で偉人と称揚される人物は圧倒的に経済界から輩出されている。
それは米国社会や中国社会のように金持ちになったからではなく、社会に寄与したという視点に基づいて評価された結果である。
現在、日本の若者が企業家を目指してベンチャーを設立しているが、IPOして大金持ちになることをGOALとせず、墓に持っていけない大金をいい加減な使い方をする官僚に委ねずに、自ら汗をかいて社会に還元するところまで実践できるようなシナリオを描いて欲しいと思うのである。

ちなみに、筆者の夢は第三次産業から第一次産業に回帰し、農業と漁業と林業を総合的に運営する大規模NPOを設立して、安全で新鮮な食料を生産して消費者に喜んでも らって、その一方で、生活保護を受けたくない母子家庭に仕事と生活を提供できるようなインフラを作りたいと考えている。
このプロジェクトは女子供ハウスという(プロジェクトの詳細は秘密です。ま、現代の東慶寺、DV(domestic violence)と貧困の駆け込み寺ですな)。

墓に持っていけない程のお金がもし貯まったら、小倉昌男氏のように自らの手で実践して、社会に還元するということをしてみたいものである。

皆さん、官僚に福祉を任せてはいけませんよ。
彼等はお金を何に使うか分かりませんからね。彼等は田舎に牛専用の高速道路でも作って人間には役に立たないものにお金をつぎ込むエリート集団ですから。