【第23回】ワイン談義 -ボルドー入門

このメルマガは会社の啓蒙活動の一環なので、システムエンジニアリングや、SE論やピープル・ウェアを中心に執筆してきた。
筆者の趣味に関する(つまりは得意技)記述は全く書いて来なかった。この辺で少しそういう側面も出しても良いのではないかと思い、試しにワイン談義をしてみたいと思う。

ワインを題材にした小説というと、開高健の『ロマネ・コンティ・1935年』が有名であるが、何と言っても傑出しているのは、ロアルド・ダールの『味』であろう(短編集 Someone like you:あなたに似た人 所収)。

物語は、あるディナーで主人と客がひょんなことから賭けをすることになって、互いに、自分の娘と相手の全財産を賭けてワインのテイスティングをやる話である。
主人が出したワインを客が1口、1口と味わっていって、次々に場所を狭めていき、最後にワイン名を言い当てて、娘をもらうというストーリーで、最後に大どんでん返しが待ち受けるという短編である。

筆者はそのワインテイストの記述の正確さ(ちょうどボルドーに凝っていた頃だったので)にとても驚き、かつ、ロアルド・ダールがこの短編を書くのに、いく ら投資したのかを考えて茫然となった記憶がある(数億円はゆうに使っていると思います。原稿料ではまかないきれません)。
この小説の中に出てくる、「クラレット(Claret)」というのは、英国人がボルドーワインのことを指した名称である。もともと、現在のボルドー地方は 12世紀~15世紀の間イギリス領で、そこで造られたワインがイギリス貴族に愛飲されたためにクラレットの名称が今日まで残っていて、この小説でも使われているのである。

ボルドーワインというと、グランバン(Grands Vins)という一級格付けが有名で、マルゴー、ラフィット、ムートン、ラトゥール、オーブリオンが世界最高峰の高級ワインとして名高い。
ボルドーには、メドック、オー・メドック、ポムロール、ポーヤック、サン・ジュリアン、グラーブ、サン・テミリオン、ソーテルヌという地区に分かれ、等級 も1級から5級に分類される。その等級も2級より1級の方が美味しいかというとそうではなく、約100年もの間、再格付けがなされておらず、例えば、2級 レオヴィル・ラス・カースや、デクリュ・ボカイユ等は今度格付けが実行されたらグランバン(1級)当確と言われているし、3級であるラグランジュもサント リーが80年代に全面的に立て直さなかったら等級外になっていた可能性がある。

フランスワインには、AOC(アオセと読む)という、産地統制呼称というのが法律で決められていて、高級ワインであれば必ずワインのラベルの下の方に、 「Appellation xxx Controlee」という表示が入っている。この「xxx」が地名であり、この地名が狭くなればなるほどスペシャリティが高いワインとなるのである。

 (ブルゴーニュ → コート・ドール → ヴォ―ヌロマネ)
  (地区名)       (地区)         (村)

このように、フランスの名醸ワインは、フランス全土から産出されるが、その中でもボルドーだけは特別な意味を持つ産地なのである。特に、ワインを初めて学ぶ人には重要である。

ボルドーワインは200年以上もの長い間、イギリス、フランス、アメリカを始めとする世界中のバイヤーやコレクターが、等級、ビンテージ・チャート、それぞれの年の品質をウォッチしてきたので、200年間全品目が物差しのように正確に格付けされているのである。それゆえ、メジャー(物差し)として使えるので ある。
例えば、ナパバレーの何とかというワインを評価する時に、ボルドーの××の××年のビンテージと同じくらい美味しいのに値段は格安だ、というように、客観的な評価基準となり得るのである。

味や香りというファジーな要素や複雑な条件が重なりあったワインという嗜好品を(ほぼ)絶対的に評価するレギュレーションとして、ボルドーワインは重宝なのである。
ゆえに、ワイン通を目指すなら、まずボルドーワインから始めなければならないのである。

もうひとつ注意しなくてはならないことは、約2万円を超えた値段のワインは希少価値や人気によって値づけされているので、10万円のワインのほうが2万円のワインより5倍美味しいということにはならない。筆者の感覚では驚くほどの違いはないと思う。(たまにぺトリュスとかルパンのように傑出したのもあり ますが、20万のぺトリュスが2万の4級ランシュバージュより10倍美味しいということはない)なので、必ずしも値段が高ければよいということもない。
高級ワインでも1万円台で充分によいものが楽しめる(ボルドーにこだわらなければもっと安く楽しめますが)。

ちなみに、今まで筆者が飲んだ中で一番高価で希少なワインは何かというと、某大会社の副会長にして有名なワインコレクターのA氏にご馳走になった1860年 (安政年間デスゾ)のマデラと、1999年にドイツのエゴンミューラーの屋敷を訪問し、今は亡きエゴンミューラー3世にふるまわれた1940年のエゴン ミューラーのどちらかであろうと思われる(もちろんどちらも美味でした)。どちらが高価かは皆さんの判断にお任せします(ペトリュスやロマネコンティより高価です、たぶん)。