【第17回】タテ書きからヨコ書きにする罠 ~赤頭巾ちゃん、気をつけて!

日本人は言葉に弱い。特に横文字に弱く、タテ書きをヨコ書きに変えただけでその言葉が本来持っている価値や見方が変わっていることに気がつかない。
場合によっては意味がすりかわっていたりもする。
これは社会問題である。日本人のヨコ文字音痴を利用した狡猾な罠である。

例えば、無職はフリーター。「無職」と表現するより自己主張があって立派に見える。まるで自由人のようである。
コソ泥はピッキング。「コソ泥」より罪悪感がないし、罪も軽い気がする。
変質者はストーカー。「変質者」と呼ばれるより、手軽に付きまとうことが出来るようになった。怠け者はニート。これは新しい職業のようで、「宅の子供はニートでございまして。おほほ。」と意味のわからないおばさんに自慢したりできる。
乞食はレゲェのおじさん。乞食と表現するよりも親しみが湧いて悲壮感が感じられない。

おれおれ詐欺はまだ日本語のままだが、どっかの日本語を知らない留学バカがマザーコール・フィッシング(Phishing)なんて新語を発明しかねないような状況である。


最近では我がソフト業界もIT業界(Information Technology)と呼ぶようになって随分求人が多くなったように思う。 思い出してみれば、ソフト業界黎明の70~80年代、この業界は情報処理業と呼ばれていた。××処理とつく職業は、一般的には産業廃棄物処理やし尿処理や 汚物処理のように、人の嫌がる仕事を請け負うものなのである。経理や営業の膨大な情報も企業の活動のゴミの一部としてコンピュータで「処理」されてきた訳である。
その当時(本当は実態は今もそうだが)この仕事は間違いなく、3K(キツイ、キタナイ、キケンではなく、キツイ、キビシイ、キンムガナガイ)の職業で、間違っても学生が殺到するような仕事ではなかったのである。

それがIT業界と名前が変わった途端に人気が出てきたのである(背景に、.comバブルで若い億万長者が出現したこともありますが)。
業界にいる皆さんでさえ皆勘違いすることが多いのだが、アプリケーションを作ってお客様に納めるまでの仕事の流れはこの20~30年変わっていないのである。汎用機からミニコン、UNIXサーバー、PCへとハードが発達し、構造化からオブジェクト指向UMLに方法が進化しても、昔からやっていることは変わらない。筆者はバクテリアと同じだと前回のメルマガで書いたが、弊社の河村大先達は石工(いしく)だと喝破した。すなわち、大きな石をひたすら細かく砕いていって、最終的には砂にしてしまうような仕事なのである。
その間に、岩と石と石粒と砂と形が変化するので、置き場所が変わるだけの話しである(時代によって道具(例:COBOL、Java)と置き場所(汎用機、UNIX)が変遷したということである)。
ただし、石工の仕事なので、砂を固めて岩にする仕事はない(ここは重要である)。
細石(さざれいし)は巌(いわお)にならないのである(ちなみにこれは君が代の中のずーっとずーっと長く、という比喩である)。

弊社はよく、「ベンチャーですね」と言われることが多い。1996年に創業した当時、そういう単語は存在しなかった。そういう会社は中小企業、ないしは零細企業と呼ばれていたのである。そういうわけで、その当時は「大変だね」、「頑張ってね」という程度のものでしかなかったのである。
もちろん、IPOだの株式公開だのCBだの、エクイティファイナンス、ストックオプションという言葉も一般的には知られていなかった。これらは金融業界の専門用語だったのである(ちなみに、IPOとはInitial Public Offeringの略です。弊社は3人から出発したのでまさに零細企業で、今から言ってもアドベンチャーでした)。
中小企業がベンチャー企業になった途端に、何か新しい夢のような仕事をしているように見られるようになったのである。
これは心外であるし、どの企業ももれなく右肩あがりで成長するものだと思われたら大変である。
厳密に言うと、ベンチャーと中小企業の違いは明確である。以下に挙げてみよう(下記がクリアされればベンチャーから中小企業に昇格?したということです)。

1.バーンレート(現金消費率)が存在しない
*バーンレートとは、運転資金を営業収入からまかなえない会社の状態。
後どのくらいで資本金が運転資金に流用されてキャッシュアウトするかという指標。要するに資本金を食いつぶしながら運営されている赤字会社のこと。

2.運転資金は銀行借入でカバーしている(銀行との信頼関係が出来ている)

3.特定の顧客、特定の商談に偏っていない。特定の会社の取引に依存しない(ビジネス顧客のバランスが取れている)

4.公開はプロセスでありゴールではない(マネーゲーム無用)

5.経営者が今の仕事を本業(生涯の仕事)と自覚している

6.経営陣がビジネスの選択肢の中で一番重要なことは企業の永続性を保つことであると自覚している(お客様と従業員のためです)


タテ書きをヨコ書きにすることが流行なのならば、さしずめ中小企業庁はベンチャー企業庁とした方がいいのかもしれない。
本来、日本大和民族には言霊(ことだま)という概念があって、古来より言葉には神が宿ると信じられてきた。
それゆえ言葉を変えるということはその言葉の持つ本来の力を変化させるということなのである。タテ書きをヨコ文字に変換するということは、八百よろずの神から西洋の神に宗旨変えするということなのである。
せめて、ストーカー(変質者)、ピッキング(コソ泥)は日本語の言霊を維持しないと治安が悪くなるように思えてならない。
ベンチャーも中小企業に戻せば、マネーゲームで参戦するいかがわしい連中をIT業界から排除できるのではないかと思うのだがいかがなものか?