【第2回】レガシー/遺産

近年「レガシー」という言葉が頻用されています。某自動車の名前以外には日常あまり用 いなかったカタカナ語です。IT会社を日本で経営している米国人に「レガシー」という言葉の喚起するイメージを聞いてみると「IT業界ではマイナス、普通の人には遺産を相続するというプラスのイメージでしょう」という答えが返ってきました。米国では運用コストの高い連邦歳入庁の旧システムや海軍の旧ネットワーク・システム刷新など古いアーキテクチャをベースにしたシステ ムの作り直しに莫大な費用が投下され、なおかつ円滑に進捗してないという例を代表としてレガ シー・システムは「負の遺産」としてマイナス・イメージを喚起するのでしょう。事情は日本でも同様です。

そんなこともあってここ10数年IT業界はレガシー/遺産を腑分けし見立てをしてプラス遺産には相続税を払っても引き継ぐ価値があることをともすれば忘れてきたきらいがあります。運用/保守コストが高いのにもかかわらず顧客対応力を強化しようという企業の方針に対応できない古いアーキテクチャをもとにしたシステムやネットワーク、また技術習得力やPM力もなく出来の良くない手配師となったレガシーSE、これらはまさにマイナス遺産です。
かたや1970年代からはじまった構造化分析、データ中心手法、リレーショナル・データベース理論、CMM(現在はCMMI)、 プロジェクト管理手法などは時間軸だけでみればレガシーでしょうがこれらはプラス・レガシーです。

MRPも顧客対応力重視という視点では今ではプラス・レガシーとは必ずしもいえませんが、生産管理を部品表中心の全体システムとして捉える視点ではプラス・レガシーであり、タイム・バケットに部品所要量を展開するという基本ロジックは適用分野が狭まったとはいえ未だに有効です 。

話題は飛躍しますが、英国産業革命の出発点となった蒸気機関や紡織機などは科学者ではなく当時の「職人階級」が発明したものであることは一見不思議です。なぜ彼らがあのような発明をできたか様々な考察がありますが、当時英国では多様な科学解説書や社会動向・需要に関するパ ンフレット・書物が多数発刊されていて、それらについて議論する場(カフェやタヴァーン)がいたるところにあり(ロンドンだけでカフェが500軒位あったそうです)、それがあいまって 「discursive literacy(論議能力とでも訳すのでしょうか)」が形成できていたことが根底にあ ったからだという説があります。日本が江戸時代末期に欧米の技術を迅速に汲み取ることができ、明治維新後急速に産業国家への道を歩み始めることができた大きな要因は寺子屋からはじまる、まさに「discursive literacy」がすでに形成されていたことにあると思わざるをえません。

時が経ちアーキテクチャは進化しますが、エンジニアリングはプラス遺産の積み上げの上になりたっていることを忘れがちです。この10数年「オープン化」の動きのなかで基幹システムに立ち向かえない「蛸壺SE」「表層SE」が増加してきたことは憂慮すべき事態であり、これは相続税=「正規エンジニアリング教育コスト」を払っていないつけがまわってきたということの結果です。当社ではこれらの事柄を充分踏まえ、マイナス・レガシーとプラス・レガシーを腑分けしたうえでプラス・レガシーを踏み台にし、お客様の先々の需要を見通したアーキテクチャをもとにプロダクトとソリューション・サービスを開発しており、ECObjectsはそのひとつの結実です。